検査会社に外注できる自己抗体測定検査がどれだけあるかご存知であろうか?たとえばCRCという検査会社であればその項目数は40ある。ものすごい数である。どのようなものがあるか?
膠原病から離れたものからいくと重症筋無力症の抗Achレセプター抗体、抗甲状腺抗体のいくつか、抗血小板抗体、抗インスリン抗体、抗胃壁細胞抗体、抗カルジオリピン等々。自己免疫疾患になると抗好中球細胞質抗体(ANCA)等々。そして極めて面白い存在が抗核抗体である。面白いという意味はこの検査には医学の歴史がびっしりこびりついてはなれることができないことが、21世紀のこの時代にも明らかであるからだ。極めて人間臭い抗体のように見える。
抗核抗体とはヒトの細胞核に反応する自己抗体として見いだされ、分類されてきたもので10種類近くある。
例えば強皮症(SSc)の患者血清を用いて、'ある標準細胞'を免疫染色するわけだ。この標準細胞としては昔からなぜかHep2細胞(頭頸部癌)という、ありふれたがん細胞株が用いられている。スライドグラスの上にHep2細胞を培養する。このうえに患者血清を載せしばらく反応する。そののち、よく洗う。そして蛍光標識された抗ヒトIgG抗体などを二次抗体として反応させ洗浄後、蛍光顕微鏡で観察するのだ。そうするとSSc病では高率に核が染まるのだ。MCTDではもっと高率に染まる。一方関節リウマチや皮膚筋炎ではそこまで抗核抗体の陽性頻度は高くない。さらにこの染色パターンには芸術的なパターン模様(疾患特異的パターン)が存在する。一様に染まる。シミのように染まる。小胞状に染まる。etc,etc。
いったいこいつらが認識している抗原は何?さらに抗核抗体はポリクローナルであろう。あるいは自己免疫反応を惹起する抗原が必ずしも核由来とは限らない。抗原として別のなにかがあるのだが、とりあえず抗体として核にクロスリアクションを見ているだけかもしれない。さて、さて、さて少し考えただけで抗核抗体というものの正体がゆらいでくる。なにかの影を見ている可能性も否定できない。しかしとりあえず臨床診断分類には役にたっている。不思議だ抗核抗体。この抗核抗体、従来の細胞を鏡にして存在を浮かび上がらせる手法だけでなく、対応抗原を一応はっきりさせてその抗原と反応する自己抗体を定量するという方法もあるようだ。「菊池病」の彼女の検査結果でずらっと列記されていたのがこれだ。
ボクが抗核抗体には歴史が色濃くまとわりつくといったのは、この抗原対応型の手法があるにもかかわらず、いまだに細胞核のパターンも臨床サイドの医師は診断手法としては捨てていないということだ。診断体系ができてしまうと、手かせ足かせになるのだね。このあたりが人間臭い検査だと思われる所以なのだ。このようなパターン認識検査であるが、当然主治医が判定すべきものであろう。でも現在どれだけの医師が判断に関与しているかあやしいものである。抗核抗体という名前を残すのであれば、医師がパターン認識をしながら(主治医もそのパターン判断に責任をもちつつ)今後も続けていけばよい。しかしRNP, Sm, SS-A, SS-B, Scl-70, CENP-8, Jo-1, dsDNAという抗原型に頼りたいのであれば、それに対する自己抗体という意味で名称を改変し、今後は抗核抗体という名前を廃止したらよい。しかしながらどうも端から見ていると廃止できない理由があるようだ。このあたりのことをすっきり説明してくれる研究者がいるとありがたい。
以下は小生の暴論:
- RNP, Sm, SS-A, SS-B, Scl-70, CENP-8, Jo-1, dsDNAで自己抗体を判断しても細胞核染色パターンとは乖離が生じるから、細胞核染色による従来の抗核抗体判定はやめられないのかしら?
- 自己抗体についてはそれをクローン化して一つ一つが認識する抗原の最小単位、あるいは認識抗原が存在する蛋白群の詳細な研究を行うべきであろうと考える。そういった研究がこれまで行われてこなかった(ように見える)が、実際どうなのよ。確かにヒト型クローンが取り難いことは認めますがね。
- セントロメア抗体とかいう言い方をするがが、セントロメア独自の抗原型ってその実態はなんなの? もう一度問う。他には存在せず、セントロメアにしかないペプチド、蛋白型ってなんなのだ?
- 二重鎖DNAに対する抗体というが、その実態はなんなのだ?
- 一番大事なこと:自己抗体は免疫異常であろうが、自己免疫疾患における自己抗体の病因論的意味はどう説明されているのであろうか? これは極めて大事なのだ。CCP抗体が上昇するRAで確かにフラジェリンを介した滑膜炎が起こっているのだろうか?このあたりが今ひとつ不明なのだな。
- 以上、自己抗体について体系だった研究は進んでいるのか、非常に疑問に感じるのだが、いかがであろう?