2011年4月27日水曜日

自己抗体を振り返る(2)

自己抗体を振り返る(2)

検査会社に外注できる自己抗体測定検査がどれだけあるかご存知であろうか?たとえばCRCという検査会社であればその項目数は40ある。ものすごい数である。どのようなものがあるか?

膠原病から離れたものからいくと重症筋無力症の抗Achレセプター抗体、抗甲状腺抗体のいくつか、抗血小板抗体、抗インスリン抗体、抗胃壁細胞抗体、抗カルジオリピン等々。自己免疫疾患になると抗好中球細胞質抗体(ANCA)等々。そして極めて面白い存在が抗核抗体である。面白いという意味はこの検査には医学の歴史がびっしりこびりついてはなれることができないことが、21世紀のこの時代にも明らかであるからだ。極めて人間臭い抗体のように見える。


抗核抗体とはヒトの細胞核に反応する自己抗体として見いだされ、分類されてきたもので10種類近くある。

例えば強皮症(SSc)の患者血清を用いて、'ある標準細胞'を免疫染色するわけだ。この標準細胞としては昔からなぜかHep2細胞(頭頸部癌)という、ありふれたがん細胞株が用いられている。スライドグラスの上にHep2細胞を培養する。このうえに患者血清を載せしばらく反応する。そののち、よく洗う。そして蛍光標識された抗ヒトIgG抗体などを二次抗体として反応させ洗浄後、蛍光顕微鏡で観察するのだ。そうするとSSc病では高率に核が染まるのだ。MCTDではもっと高率に染まる。一方関節リウマチや皮膚筋炎ではそこまで抗核抗体の陽性頻度は高くない。さらにこの染色パターンには芸術的なパターン模様(疾患特異的パターン)が存在する。一様に染まる。シミのように染まる。小胞状に染まる。etc,etc。

いったいこいつらが認識している抗原は何?さらに抗核抗体はポリクローナルであろう。あるいは自己免疫反応を惹起する抗原が必ずしも核由来とは限らない。抗原として別のなにかがあるのだが、とりあえず抗体として核にクロスリアクションを見ているだけかもしれない。さて、さて、さて少し考えただけで抗核抗体というものの正体がゆらいでくる。なにかの影を見ている可能性も否定できない。しかしとりあえず臨床診断分類には役にたっている。不思議だ抗核抗体。この抗核抗体、従来の細胞を鏡にして存在を浮かび上がらせる手法だけでなく、対応抗原を一応はっきりさせてその抗原と反応する自己抗体を定量するという方法もあるようだ。「菊池病」の彼女の検査結果でずらっと列記されていたのがこれだ。

ボクが抗核抗体には歴史が色濃くまとわりつくといったのは、この抗原対応型の手法があるにもかかわらず、いまだに細胞核のパターンも臨床サイドの医師は診断手法としては捨てていないということだ。診断体系ができてしまうと、手かせ足かせになるのだね。このあたりが人間臭い検査だと思われる所以なのだ。このようなパターン認識検査であるが、当然主治医が判定すべきものであろう。でも現在どれだけの医師が判断に関与しているかあやしいものである。抗核抗体という名前を残すのであれば、医師がパターン認識をしながら(主治医もそのパターン判断に責任をもちつつ)今後も続けていけばよい。しかしRNP, Sm, SS-A, SS-B, Scl-70, CENP-8, Jo-1, dsDNAという抗原型に頼りたいのであれば、それに対する自己抗体という意味で名称を改変し、今後は抗核抗体という名前を廃止したらよい。しかしながらどうも端から見ていると廃止できない理由があるようだ。このあたりのことをすっきり説明してくれる研究者がいるとありがたい。

以下は小生の暴論:
  1. RNP, Sm, SS-A, SS-B, Scl-70, CENP-8, Jo-1, dsDNAで自己抗体を判断しても細胞核染色パターンとは乖離が生じるから、細胞核染色による従来の抗核抗体判定はやめられないのかしら?

  2. 自己抗体についてはそれをクローン化して一つ一つが認識する抗原の最小単位、あるいは認識抗原が存在する蛋白群の詳細な研究を行うべきであろうと考える。そういった研究がこれまで行われてこなかった(ように見える)が、実際どうなのよ。確かにヒト型クローンが取り難いことは認めますがね。

  3. セントロメア抗体とかいう言い方をするがが、セントロメア独自の抗原型ってその実態はなんなの?  もう一度問う。他には存在せず、セントロメアにしかないペプチド、蛋白型ってなんなのだ?

  4. 二重鎖DNAに対する抗体というが、その実態はなんなのだ? 

  5. 一番大事なこと:自己抗体は免疫異常であろうが、自己免疫疾患における自己抗体の病因論的意味はどう説明されているのであろうか? これは極めて大事なのだ。CCP抗体が上昇するRAで確かにフラジェリンを介した滑膜炎が起こっているのだろうか?このあたりが今ひとつ不明なのだな。

  6. 以上、自己抗体について体系だった研究は進んでいるのか、非常に疑問に感じるのだが、いかがであろう?
小生の勉強不足は認めるが、「研究が進歩しているのならネットの上にある程度は染みだしてくるであろうパラダイムの変更というもの」に小生は残念ながら気がつかない。どうなっているのだろう自己抗体の世界は・・?

自己抗体を振り返る(1)

外科系を歩いてきた小生に自己抗体を振り返る資格があるかといえば、無くはない。大学院時代ヒト型抗体が研究テーマだったので、坦癌患者や健常人の末梢血に「いかに多くの自己組織と反応する抗体を作るリンパ球がいるか」実感はあるのだ。小生の研究手法では末梢血からリンパ球を分離し、EBウイルスによるトランスフォームでオリゴクローン化するというものであった。EBウイルスではsingle cellからの増殖は不可能であることは同様の研究をされている方には自明であろう。しかし5ー6個のオリゴクローンからなら増えてくる。このオリゴクローンは事実上は抗体産生については単クローンと見なして良い。

研究の主たるテーマとして自分の癌と反応するクローンを見つけることに心血を注いでいた小生としては、山のようにクローン化されてくる「抗核抗体」がじゃまでじゃまで腹がたつやらあきれるやらであった。自分の成分に対する免疫反応は「禁止クローン」となっているのが当時の定説だったので、これも寛容かと思いつつ、これではあまりにルーズな免疫システムではないかと理論と実際の乖離にあきれたものだ(実際はそこまで乖離していないというのがその後わかったのだが、これはこれ)

さて最近2週間で自己抗体にまつわることが2回もあったので、最近の抗体業界がどうなっているかを振り返ってみたわけだ。その2回とはこうだ。

その(1):35歳の女性が1週間前から朝のこわばり、つまり四肢指の関節痛と腫脹を訴えてやってきた。中途は省くがCRPは5以上と中等度に高かったので内科にお回ししたところRAを疑われてCCPというものを測定された。このCCPというものに興味を持ったわけだ。これは膠原間質組織にあるflagerinという蛋白に対する「自己抗体」であり、いわゆる膠原病のなかでもRAに比較的特異的に発現するらしい。RFとともに診断基準(2009年のRA診断基準)の最初の項目に取り上げられているわけだ。自己抗体ですか。ふむふむ。ところでどうやって測定するんだろう。

まず人工的にflagerinペプチドを合成するわけだ。これを96孔プレートに固相化する。ふむふむ。そして患者血清を振りかける。洗う。そして反応基をカップリングされた抗ヒトIgG抗体(マウス由来)を二次抗体として振りかけるわけだ。またまた洗う。そして反応基質をいれて待つこと数分。反応色素の濃さを読み取るわけだな。まあ単純なELISA(Enzyme-Linked-Immuno-Sorbent-Assay) そのものである。

いくつかのことがわかる。対応抗原は短いペプチドである。これを工夫進化させたことで今現在3世代目のELISAキットがあるのだそうだ。2代目からは合成したペプチドの両端をカップリングさせて(まあお手々をつながせて・・ということ)円環状にしている。これでグッと反応性があがるのだそうだ。これがCCPの由来。すなわちcyclic citrullinated peptide。んっ?まんなかのシトリンって何?これは関節リウマチになるとこのflagerin蛋白の一部がシトリン化するらしい。この部分を反応抗原ペプチドに取り入れているということだ。

ここまでマニアックだと正常人血清では反応しないだろうと思われるかも知れないが、実は反応価は低いが弱陽性では反応するらしい。しかしこれは実験室レベルの話かも知れない。実際の臨床現場では、この程度のことはなんのその。十分に十二分にお役に立っているということである。

その(2):25歳女性:1週前から左の頚部リンパ節が累々と腫れている。痛い。発熱無し。白血球減少あり(2300→
1900
1600)。詳しいことは省くがまたまた「菊池病」の可能性がある方がやってきたわけだ。小生のよく知っている女子なので生検はなるだけ避けたい。2週間目までは小生が見たがリンパ節はますます腫れている。ややこしい病気を見逃すわけにはいかないので、ここでこの町でもっとも私が信頼する血液リンパ内科の先生へご紹介した。一ヶ月で何回か見てもらったが、炎症のピークはようやく過ぎたようだ。かの先生の見立ても「(暫定)菊池病」であった。生検はしていない。(生検しないでほしいなんて、全く言ってない。むしろ確定診断して欲しかったのだが)。お返事のお手紙にいろいろな検査結果が書いてあったが、その彼女が「血液検査だけなのに高かった!」とぼそぼそ言う。わがまま言うんじゃない!その検査結果の中にANAの結果がずらっと載っていたわけだ。ANAこれは抗核抗体なのだ。これがびっくりするくらい種類が多い。これには驚いた。自己抗体である抗核抗体について次回書いてみよう。

2011年4月23日土曜日

メタゲノムで面白そうな論文:ヒト大腸フローラは3種類ある?

Nature(2011)

Received 12 March 2010
Accepted 18 December 2010
Published online 20 April 2011

Enterotypes of the human gut microbiome


Manimozhiyan Arumugam, Jeroen Raes, Eric Pelletier, Denis Le Paslier, Takuji Yamada, Daniel R. Mende, Gabriel R. Fernandes, Julien Tap, Thomas Bruls, Jean-Michel Batto, Marcelo Bertalan, Natalia Borruel, Francesc Casellas, Leyden Fernandez, Laurent Gautier, Torben Hansen, Masahira Hattori, Tetsuya Hayashi, Michiel Kleerebezem, Ken Kurokawa, Marion Leclerc, Florence Levenez, Chaysavanh Manichanh, H. Bjørn Nielsen, Trine Nielsen, Nicolas Pons, Julie Poulain, Junjie Qin, Thomas Sicheritz-Ponten, Sebastian Tims, David Torrents, Edgardo Ugarte, Erwin G. Zoetendal, Jun Wang, Francisco Guarner, Oluf Pedersen, Willem M. de Vos, Søren Brunak, Joel Doré, MetaHIT Consortium, Jean Weissenbach, S. Dusko Ehrlich, Peer Bork,MetaHIT Consortium

林 哲也さんは宮崎大学で腸管細菌ゲノムを長年研究されているようだ。黒川 顕さんは「2007年のあの論文」が有名である。この世界では最初のまとまった仕事だからメタゲノムの世界では必ず引用される。あと服部 正平さんも日本のメタゲノムの第一人者。日本語の総説をよく拝見する。Weissenbachは最近メタゲノムをやっているのですね。昔は筋ジスでありヨーロッパのゲノムの大御所であったヒトだ。面白い方向性だ。フランス・ヨーロッパがメタゲノムでは頑張っているのだね。

Comparative Metagenomics Revealed Commonly Enriched Gene Sets in Human Gut Microbiomes
DNA Res (2007) 14 (4): 169-181.

Our knowledge of species and functional composition of the human gut microbiome is rapidly increasing, but it is still based on very few cohorts and little is known about variation across the world. By combining 22 newly sequenced faecal metagenomes of individuals from four countries with previously published data sets, here we identify three robust clusters (referred to as enterotypes hereafter) that are not nation or continent specific. We also confirmed the enterotypes in two published, larger cohorts, indicating that intestinal microbiota variation is generally stratified, not continuous. This indicates further the existence of a limited number of well-balanced host–microbial symbiotic states that might respond differently to diet and drug intake. The enterotypes are mostly driven by species composition, but abundant molecular functions are not necessarily provided by abundant species, highlighting the importance of a functional analysis to understand microbial communities. Although individual host properties such as body mass index, age, or gender cannot explain the observed enterotypes, data-driven marker genes or functional modules can be identified for each of these host properties. For example, twelve genes significantly correlate with age and three functional modules with the body mass index, hinting at a diagnostic potential of microbial markers.

詳しく読んでいないが、ずいぶんおもしろい。予想もしない報告だから。

2011年4月20日水曜日

関節リウマチの診断基準:2009年

RA診断基準(2009AUR/EULAR)

①関節炎の数と分布
          0点:1ヶ所の中〜大関節
           1点:2-10ヶ所の中〜大関節
           2点:1-3ヶ所の小関節
           3点:4-10ヶ所の小関節
           5点:>10ヶ所の関節(少なくとも1つは小関節)

②血清
           0点:抗CCP抗体およびRF陰性
           2点:抗CCP抗体またはRF低値陽性
           3点:抗CCP抗体またはRF高値陽性

③関節炎の持続期間
           0点:6週間未満
           1点:6週間以上

④急性期反応物質
           0点:CRPおよびESR正常
           1点:CRPまたはESR異常

 上記の合計点が10点満点中6点以上でRA確定例と診断される

2011年4月19日火曜日

嗚呼ボストン、されどボストン!:2時間03分02秒

今年のボストン・マラソンは昨日(本日)行われたが、すごい記録が出たようだ。優勝記録が2時間03分02秒である。ゲブレセラシエの世界最高記録(2008年9月28日:ベルリンマラソン:2時間3分59秒)をほぼ一分短縮した。

ボストンマラソンのコースは歴史的なコースゆえに、過去いろいろな人間模様が繰り広げられてきたが、その最大の特徴(になっちまいやがった!)は、ここで世界新記録を出しても公認されないことである。コースが片道であることが最大の理由。国際陸連はマラソンの世界最高記録についてはかなり細かい条件を要求している。

もっともボストンはほとんどの年は条件が悪く、記録が出ないコースなのだが、たまに気温が低く、そして本当に稀に強い西風が吹くときとてつもないことが起こることがある。まあ、今年もそうだということだ。過去に有名なのは1994年であり、優勝したC・ンデティ(2:07:15)以下11人が10分以内でゴールしたのである。しかしちょっと条件が悪く気温が高いとたちまち「ホノルルマラソン」のようになってしまう。
それでも人材が集まるのは名門ゆえ。

ここで、こんな記録が出ることは稀であるが、マラソンの神様はなんという意地の悪いことをなされたのだろう。これからこの記録が破られるまでには数年かかろう。だって次の世界最高記録は2時間2分台(九分九厘)なのだ。それまでこの記録がどのような扱いを受けるか・・・

アメリカのことであるからごり押しも考えられる。
しかし絶対にそんなことは認めてはならぬ。ボストンマラソンは特別のマラソンとして愛され続ければよい。またコースを変えてはならない。そんなことをしてはかつての福岡マラソンがたどった衰退の二の舞である。記録は記録。名門は名門。矛盾もまた良いではないか。



Top 10 Men, 2011 Boston Marathon

1. Geoffrey Mutai... KEN... 2:03:02
2. Moses Mosop... KEN... 2:03:06
3. Gebre Gebremariam... ETH... 2:04:53
4. Ryan Hall... USA... 2:04:58
5. Abreham Cherkos... ETH... 2:06:13
6. Robert Kiprono Cheruiyot... KEN... 2:06:43
7. Philip Kimutai Sanga... KEN... 2:07:10
8. Deressa Chimsa... ETH... 2:07:39
9. Bekana Daba... ETH... 2:08:03
10. Robert Kipchumba... KEN... 2:08:44

2011年4月18日月曜日

降下性壊死性縦隔炎

フルニエ壊死性筋膜炎は有名だし、時々見る病態であるが、これの縦隔バージョンがあるのだということを知る。知人が最近遭遇した病態だという。下顎の粉瘤あるいは皮下膿瘍を主訴に切開排膿で外来処置していたがなかなか良くならなかった患者が、いつの間にか敗血症を併発していたのだそうだ。CTで縦隔に膿瘍形成をしていたとのこと。こわいねえ。
        大曲皮膚科HPより大胆に引用させていただく


Fournier壊疽ーフルニエ壊疽

  • 陰茎・陰嚢に発生する壊死性筋膜炎で、糖尿病・HIV感染の増加により増加傾向にある。その他の基礎疾患は悪性腫瘍、アルコール性肝障害、慢性腎不全などの免疫不全である。感染経路は尿路・肛門周囲・皮膚からの3つに分けられ、進展様式は陰嚢・会陰部の腫脹・変色・壊死など皮膚所見の典型的症状を示すので早期に発見し治療開始出来るため比較的軽 症で済み睾丸除去を行う必要がないことが多い外攻型と、直腸癌の二次感染や肛門周囲膿瘍などから浅会陰筋膜、尿生殖隔膜を経て陰部・下腹部に拡大するため 皮膚所見に乏しく診断が遅れて重症になる内攻型に分けられる。非A群連鎖球菌・Enterococcus属などの混合感染が原因(壊死性筋膜炎Ⅰ型)のことが多い。治療は積極的なデブリードマンで睾丸摘出(16%)や陰茎切除(4%)を要する場合もある。
頚部壊死性筋膜炎ー降下性壊死性縦隔炎
  1. 頚部壊死性筋膜炎 は、頸部ガス壊疽と呼ばれることもある深頸部のガス産生菌感染症である。歯周病、扁桃炎、喉頭蓋炎などを原発とし、深頸部に広がる解剖学的間隙に沿って感染が急速に進展する。旁咽頭間隙や顎下間隙の感染が舌骨を超えて降下すると前頸間隙から前縦隔に至る。咽頭後間隙の感染が降下すると後縦隔に至る頸部壊死性筋膜炎が縦隔にまで拡大したものを降下性壊死性縦隔炎と呼ぶ。主な起因菌は、口腔内常在菌であるStreptococcus属、Prevotella属、バクテロイデス属である。

  2. 理学所見では、頸部の著しい腫脹、発赤、疼痛を認める。時に握雪感を伴うこともある。確定診断にはCT検査が重要である。 本疾患を疑ったら、頭部から胸部にかけて撮像することを勧める。頸部の軟部組織を中心に、脂肪組織の炎症像、液体貯留、散在するガス像などが見られるのが 特徴的な所見である。歯周病が原発であれば、顎下間隙、咀嚼筋間隙にガス像が集中する。咽頭が原発であれば、旁咽頭間隙、咽頭後間隙にガスが集中する。感 染の拡大に伴い、ガス像も頭側は頭蓋底や側頭筋内に、尾側は縦隔に広がる。

  3. 本疾患は致死率の高い感染症であり、抗菌薬の投与のみならず、早期に感染が波及 した解剖学的間隙を開放し、壊死組織を除去する外科的ドレナージ術を行うことが標準治療とされており、治療成績は良好でだが、極めて侵襲の大きいという難点があった。

  4. 下肢の壊死性筋膜炎では温存困難な壊死した筋膜に遭遇するが、頸部においては感染が及んだ間隙を開放しても膿汁が流出する程度で、筋膜は存在 すら認識できず、切除すべき壊死組織などもほとんどないのである。また頭蓋底に近い咽頭後間隙などは、大きな皮膚切開でも容易に到達できず、ドレーンを誘導するのが精一杯であり、到底デブリードマンなどできない。本疾患に対する外科的ドレナージは、結果的に排膿処置にすぎないのではないかと考えるようになった著者らは1998年から経皮的カテー テルドレナージ法を導入した。甲状腺レベルで感染の波及した前頸間隙を超音波ガイド下に穿刺し、感染が波及した経路を逆行して血管造影用のガイドワイヤを 進め、経皮経肝胆管ドレナージ用のカテーテルを留置している。ガイドワイヤは、解剖学的問隙に沿ってしか進まないので、臓器損傷の心配はない。縦隔炎合併例に対しては、前頸間隙を尾側に向かって穿刺することで前縦隔に、甲状腺背側の咽頭後間隙を穿刺することで後縦隔にカテーテルを留置している。留置したカテーテルは、閉鎖回路で管理し、ドレナージするのみで、洗浄は行っていない。抗菌薬は、最も検出頻度の高いStreptococcusがターゲットとなるぺニシリンGと、嫌気性菌がターゲットとなるカルバペネム系を併用している。

  5. これまでに40例以上の症例に対して経皮的カテーテルドレナージを行ってきた。平均3本のカテーテルを留置し、カテーテル留置期間は平均16日間であった。二次感染が少ないこと、創部からの蛋白漏出が少ないこと、侵襲が少ないことなどが寄与し、ICU滞在期間、人工呼吸管理期間の短縮につながった。これまでの死亡例は、今回取り上げた症例を含めて2例のみで、諸家の報 告よりも良好な成績である。壊死性筋膜炎という病名は、感染の首座が筋膜であるかのように想像させる。しかし頸部の筋膜とは、発生過程で生じた各器管の境 界に存在する薄い線維性の膜にすぎない。頸部壊死性筋膜炎とは、その薄膜に沿って広がる感染症であり、必ずしも外科的ドレナージ術が必要な病態ではないと考える。

2011年4月17日日曜日

君はAurora Bを見たことがあるか?

Telophase(体細胞分裂終期)

By Paul D. Andrews, University of Dundee

間期→前期(prophase)→前中期(prometaphase)→中期(metaphase)→後期(anaphase)→終期(telophase)→間期

Once chromosomes are pulled to either side, the cell start reversing the steps of prophase and prometaphase: the nuclear envelop reforms around decompacting chromosomes. Near the end of telophase, a thin bridge between the daughter cells, called the midbody contains the remnants of the mitotic spindle. A ring of actin filaments (i.e., the cleavage furrow) pulls like 'purse strings' to pinch the cells into two.

Image: Two HeLa cervical cancer cells captured in telophase, as sister chromatids are separated into the two ends of the dumbbell-shaped cell. Green fluorescence is from Aurora B protein kinase fused to eGFP with white and red marking DNA and tubulin. The image was taken using a DeltaVision deconvolution/restoration microscope.

ほとんど二つの細胞に分裂する直前の細胞イメージである。白いもやもやしたのは新たに合成された染色体DNAである。赤いチュブリンは動原体微小管を表していると見てよいだろう。緑は一細胞がくびれて、ちぎれんばかりの「橋わたし部分」(Aurora B)である。

  • Aurora キナーゼの欠損細胞は主として中心体分離と双極性紡錘体形成が不全となり,単極紡錘体の周囲に放射状に紡錘糸が広がる染色像が極光(オーロラ)を髣髴させることからこの名がついたそうな.

美しい写真である。多言は無用だなあ。 'purse strings'なんだAurora B。サイフのひもはアタシがしっかり握ってますから・・・てとこだね。印象深い写真だな。

2011年4月16日土曜日

久しぶりにマーラーの3番を聴く

以前俵 孝太郎さんのCDでクラッシック全集を作るという話題を書いたが、その後順調にCDは増えていっている。基本的には俵 孝太郎さんの御すすめ通りに増やしていっているが、時に脱線をする。例えばラヴェルの全曲を制覇したくなったり、フランクやドビッシーの室内楽を渉猟したくなったりして、それなりにこれは素晴らしいと思える曲に巡り会っているのだ。楽しいですな。

そんな中、そういえば小生はマーラー全集を持っていなかったなと気がついたわけですな(CDでは持ってなかったってこと)。学生の頃あれだけ聞き惚れていたマーラーですが、最近では5番6番9番と時に4番を聴くことは聴くものの、例えばあれだけ好きだった3番は久しく聴いていないことに気がついたのだ。3番というのはボクのクラッシック人生でもかなりの結節点であり、この曲を早期に聴いたことで随分クラッシックの間口が広がった気がするのだ。久しぶりに3番を聴こうかな、それなら全集を手に入れようかな・・・。

ボクは大学に入った4月にバイトをして自分で初めて買ったクラッシックLPが二枚あるのだ。いずれもブルーノ・ワルターであり、一枚がベートーベンの7番と8番であり、もう一枚がマーラーの巨人であった。ボクは高校時代まではロックしか聴かなかったので、これらの3曲はもちろん全く聴いたことがなかった。大学に入ったときに「これからはクラッシックを聴こう」と決めていたとはいえ、何を根拠にこの3曲を選んだのかは今となっては覚えていない。あるいはジャケットかもしれない。ただワルターは親父が好きな指揮者だったので、これははずせない。巨人はタイトルに引かれたのかもしれない(野球ではない。どとらかというとアンチ巨人だし)。ベートーベンの7番と8番はすぐに好きになった。5番6番と9番は知っていたが、むしろ7番と8番のほうがいいのではないかとさえ思った。

さて、マーラーである。当時マーラーは余り人気のある作曲家ではなかった。晦渋という言葉があるが、ボクが晦渋という言葉を覚えたのもマーラーの評価がそうだったから。でも一番の巨人は悪くなかった。何度も何度も聴いているうちに、突然ふわっとしっくりくるようになる、そんな音楽があることを初めて知った。ロックなどポピュラー音楽は、ほとんど聴いた瞬間に好き嫌いがはっきりするものだが、ある種の芸術は瞬間的に好き嫌いで判断しないほうが良い、そうするととても損をすることに気がついたのはマーラーの音楽を聴いてからのことだ。

それから街中のレコード屋さん通いが始まる。しばらくすると店のお姉さんと仲良くなった。「マーラーなんだけど一番の次には何を聴けばいい?」と尋ねると「そこの白髪のおじさんが詳しいから尋ねてみて」という。その店の常連らしい銀髪のおじいさんにおそるおそる聴いてみました、私。間髪を入れず「3番だろうね」と返事があった。何もわからない私でしたが、そのおじいさんの余りの歯切れの良さ、瞬間の返事に半ば感動し「3番」を購入した。高かったな。二枚組で5000円くらいしたと思う。35〜36年前のことである。そのころ3番はバーンスタインとクーベリックしかレコード屋さんには置いてなかったと思う。小生が購入したのはもちろんバーンスタインである。マーラー→ワルター→バーンスタインくらいの音楽史的知識はもうすでに持っていたからな。

ところがこの3番であるが苦痛だった。まず長い。とてつもなく長い交響曲であった。100分続く。聴き始めたらまず2時間。
しかし何度も何度も何度も聴いた。聴くからには真剣に聴いた。ながら族などもってのほか。そしたら音楽のほうから、近づいてくるのだな。まず第4楽章がわかるようになった。
アルトの独唱で「おお人間よ(O Mensch)」と歌いだすと、なんだか法悦の境地に陥る訳だ。クラシックはいいなあと思うようになる。そのうち(おそらく20回くらい聴いた頃)突然、全曲が神々しくなる。100分の曲だけど、ほとんど頭に入ってしまう。こうやってマーラー気違いが一人誕生したわけだ。このあと4番を聴いたら、もうこれは初めからわかるのだ。最初から好きになる。5番も6番もそうであった。9番なんか、どうしてこんな曲をいままで知らなかったんだろうと悔いたものだ。 でもマーラーならなんでも好きという訳ではない。8番は嫌いな曲であろう。7番と2番は普通だった。大地の歌はよく聴いたが当時はよくわかっていない(ということに最近気がついた)

ちなみに当時の小生のコレクション・ラインアップ
  1. ワルター:コロンビア
  2. バーンスタイン:NYP(箱入り二枚組)
  3. バーンスタイン:NYP(緑色)
  4. ハイティンク:コンセルトヘボウ
  5. ショルティ:シカゴ
  6. バーンスタイン:NYP(紫色)
  7. バーンスタイン:NYP(青色)
  8. ショルティ:シカゴ
  9. バルビローリ:ハレ(だと今の今まで思っていたがひょっとするとベルリンかもしれぬ)
  10. 大地の歌:ワルター VPO
だった。10番は持ってなかった。バーンスタインの(緑色)(紫色)・・というのは知るひとぞ知る、当時のジャケットカラーのことだ。 今回買ったのは下の16枚組。これ交響曲のみならず、歌曲他マーラーのすべてというやつである。これが3910円なのだ。35年前の3番一曲分より安いのである。

Mahler: the Complete Works [Import, from US]
  • CD (2010/5/24)
  • SPARSコード: ADD
  • ディスク枚数: 16
  • フォーマット: Import, from US
  • レーベル: EMI Classics



















ここのところ毎日通勤の行き帰りに聴いている。で、3番がいいの。これひょっとしてマーラーの交響曲のなかで一番好きかも。2番も以前より好きだな。そんなわけで、私のなかでは数十年ぶりのマーラーブームなのである。


大地の歌はこれは自分が年を取ったことがしっかり認識された。すごい曲集であったことを初めて実感しております。感無量です。

今回のラインアップ
  1. ジュリーニ :シカゴ(1971)
  2. クレンペラー:フィルハーモニア・オケ(1963)
  3. ラトル:バーミンガム(1997)
  4. ホーレンシュタイン:ロンドン(1970)
  5. テンシュテット:ロンドン(1988)
  6. バルビローリ:ニュー・フィルハーモニア・オケ(1967)
  7. ラトル:バーミンガム(1991)
  8. テンシュテット:ロンドン(1986)
  9. バルビローリ:ベルリンフィル(1964)
  10. ラトル:ロンドン(2000)
  11. クレンペラー:フィルハーモニア・オケ(1967):Das Lied Von Der Erde
最後にマーラーのディスコグラフィーをまとめたHPがあるので記録しておこう。(これみると私の古い9番はバルビローリとベルリンフィルの有名なバージョンのようだ。素晴らしい9番なんだけど、当時あのエピソードは不覚にも知らなかった)

鋸歯・塚谷・大腸ポリープ

鋸歯のことを調べていたら、すぐに去年の3月頃の塚谷博士のお仕事に遭遇した。塚谷博士とは懐かしい名前に遭遇したものだ。この先生の中公新書「植物の「見かけ」はどう決まる―遺伝子解析の最前線 (中公新書)」は今から16年も前の本だが、極めつけに面白いほんだった。何回読んだかわからない。弟子の柘植君という方が登場するのだが、柘植さんどうしておられるのだろうか?

  • 新書: 204ページ
  • 出版社: 中央公論社 (1995/02)
  • ISBN-10: 4121012291
  • ISBN-13: 978-4121012296
  • 発売日: 1995/02
  • 商品の寸法: 17.4 x 11 x 1.2 cm  (悲しいことにこの本は絶版です:良い本が長生きできない国、日本

若くして東大教授になっちゃった塚谷先生の最近のお仕事が「鋸歯」のできる仕組み解明なんですな。10年以上塚谷先生や柘植君のことを失念していましたが、また身近に感じられるようになりましたね。

葉の縁のギザギザ「鋸歯」ができる仕組みを解明


河村 英子(東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻 元特任研究員)
堀口 吾朗(立教大学理学部生命理学科 准教授)
塚谷 裕一(東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻 教授)

どんなふうにしてこの鋸歯ができるのか、その間隔や大きさはどうやって決まっているのかは、不明のままでしたが、今回、モデル植物のシロイヌナズナを使った研究から、その基本的な仕組みが初めて明らかになりました。

概要:

モデル植物のシロイヌナズナでは、CUC という遺伝子群が壊れて機能を失うと、葉の鋸歯がなくなって、なめらかな縁になることが見いだされています。CUC は双葉を作る際にも大事な遺伝子で、双葉の場合は、その2枚の境目に働きかけて、双葉をそれぞれきれいに1枚ずつに切り分ける働きがあります。その連想から、鋸歯はCUC によって、葉の縁に刻みが入り、谷間ができた結果なのだろう、と想像されていました。
今回塚谷教授らのグループは、シロイヌナズナの葉の縁の部分の発生のようすを、細胞レベルで、また各種の遺伝子の発現を参照して詳細に観察すると共に、CUC が異常になった変異体など鋸歯に異常を示す材料と比較することで、まず、従来の理解が間違っていることを見いだしました。なんと、CUC という遺伝子群が壊れて葉の縁がなめらかになるのは、鋸歯と鋸歯の間の谷間がなくなったからではなく、むしろ鋸歯が突出しなかった、つまり山が盛り上がらなかったからだったのです。
葉の縁を先端から基部に向かってオーキシンが流れます。そうすると、ところどころでオーキシンンが溜まる場所が自然と生じます。そのオーキシンが集まった場所が、将来の鋸歯の先端に当たる部分となり、その両脇をCUC 遺伝子がいわば固めることで、鋸歯の位置が確定します。そしてオーキシンCUC 遺伝子の協調の結果、その部分の成長が促され、山のように細胞が盛り上がり、鋸歯となる、というわけです。この、オーキシンが場所を決め、そしてその場所が成長して盛り上がるというやりかたは、茎の先端の分裂組織で、茎に沿って葉が順にできる仕組みとよく似ています。
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さて、なにかヒントになることはないだろうか

鋸歯とはなにか?:葉っぱの形態形成とのホモロジー

鋸歯とはなにか?   はいそこの病理の先生、お答えください。といって正確にお答えを返される先生は何人いることだろう? まずこれはなんと読むか? 「のこぎりば」である。というのは嘘ではないが、医学生物学の分野では一般的ではない。「きょし」と呼びます。「きょしじょうびょうへん」 先ほどの「のこぎりば」ということから、これはノコギリ(鋸)の歯の並びを表す言葉である。と同時に植物の葉っぱの辺縁のぎざぎざを表す言葉である。 google imageによると・・・・・・・


葉っぱの形を記述する用語なんだね。

















低鋸歯、整生鋸歯、重鋸歯なんていう言葉もある。イメージが膨らんだでしょうか?

大腸ポリープの形態形成と葉っぱの辺縁の形態形成に類似点を求めて研究している人はいないのだろうか?今後の病理学に面白さを求めるとすればこのあたりに突破口はあるのではないだろうか?形態形成に興味が持てない病理研究者は廃業したほうがいい。


葉の縁のギザギザ「鋸歯」ができる仕組みを解明


河村 英子(東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻 元特任研究員)
堀口 吾朗(立教大学理学部生命理学科 准教授)
塚谷 裕一(東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻 教授)



Plant J. 2010 May;62(3):429-41. Epub 2010 Feb 1.
Mechanisms of leaf tooth formation in Arabidopsis.

Kawamura E, Horiguchi G, Tsukaya H.

Graduate School of Science, The University of Tokyo, 7-3-1 Hongo, Bunkyo-ku, Tokyo 113-0033, Japan.
Abstract

Serration found along leaf margins shows species-specific characters. Whereas compound leaf development is well studied, the process of serration formation is largely unknown. To understand mechanisms of serration development, we investigated distinctive features of cells that could give rise to tooth protrusion in the simple-leaf plant Arabidopsis. After the emergence of a tooth, marginal cells, except for cells at the sinuses and tips, started to elongate rapidly. Localized cell division seemed to keep cells at the sinus smaller, rather than halt cell elongation. As leaves matured, the marginal cell number between teeth became similar in any given tooth. These results suggest that teeth are formed by repetition of an unknown mechanism that spatially monitors cell number and regulates cell division. We then examined the role of CUP-SHAPED COTYLEDON 2 (CUC2) in serration development. cuc2-3 forms fewer hydathodes and auxin maxima, visualized by DR5rev::GFP, at the leaf margin, suggesting that CUC2 patterns serration through the regulation of auxin. In contrast to a previous interpretation, comparison of leaf outlines revealed that CUC2 promotes outgrowth of teeth rather than suppression of growth at the sinuses. We found that mutants with increased CUC2 expression form ectopic tissues and mis-express SHOOT MERISTEMLESS (STM) at the sinus between the enhanced teeth. Similar but infrequent STM expression was found in the wild type, indicating STM involvement in the serration of simple leaves. Our study provides insights into the morphological and molecular mechanisms for leaf development and tooth formation, and highlights similarities between serration and compound leaf development.

2011年4月13日水曜日

原発供養:内田 樹さんならではの素晴らしい論考...

しばらく見てなかったので大事なことを見逃してしまうところであった。内田樹さんは原発事故以来ブログでいくつかの発言をされているが、この「原発供養」というのが一番心に響いた。この論考は直ちに今の福島原発事故収束には役に立たないかもしれない。だけど福島以外の、それぞれの地域にある他の原発とどう折り合いをつけるか、それは福島以外の地域の住民のこれからに大いに関わってくることだけに重要なことである。

このような重要な論考の一部を引用することは、本当にはばかられることだが、小生も「鎮守」ということが漸く身にしみて、わかってきただけに、是非引用させていただきたい。

・・・・だから、本来であれば、「原子力」は天神地祇を祀る古代的な作法に従って呪鎮されるべきものであった。
伝統的な日本的なソリューションは「塚」と「神社」である。
「荒々しいもの」は塚に収め、その上に神社仏閣を建立して、これを鎮める。
将門の首塚も、鵺塚も、処女塚も、「祟りがありそうなもの」はとりあえず「塚」を作って、そこに収める。
塚に草が茂り、あたりに桜の木が生え、ふもとに池ができ、まわりで鳥や虫が囀るようになれば、それは「生態系」に回収されたとみなされる。
自然力に任せておけないときは、神社仏閣を建てて、積極的に呪鎮する。
それでもダメなときは、「歌を詠む」「物語に語り継ぐ」という手立てを用いる。
日本では内戦の死者たちは物語によって呪鎮されてきた。『平家物語』は平家の人々と源義経・義仲らを、『太平記』は楠木正成や新田義貞ら敗れたものたちを 弔った。幕末の戦いについては、子母澤寛、司馬遼太郎から藤沢周平、浅田次郎に至る無数の作家たちが殺された若者たちのために鎮魂の物語を紡いだ。・・・・


・・・・「原発神社」
そして、桜が咲く頃には地域の人を集めて、「原発祭り」を挙行する。
荒ぶる神がとりあえずは「よきこと」だけをなし、恐るべき力の暴発を抑制してくれていることを感謝するのである。
私はふざけてこんなことを言っているのではない。
日本人は「こういうやりかた」をするときにいちばん「真剣」になるからである。
ほんとうに「こういうやりかた」をして原発を管理運営していたら、今回のような事故は起こらなかっただろうと私は思う。
それは私たちのDNAの中に根を下ろした「恐るべきもの」との「折り合い」の仕方だからである。
呪鎮の目的は「危険を忘れ去ること」にあるのではない。
逆である。
「恐るべきもの」を「恐るべきもの」としてつねに脳裏にとどめおき、絶えざる緊張を維持するための「覚醒」の装置として、それが必要だったと私は申し上げているのである。
現に一神教文化圏では原発は「神殿」に収められていた。
彼らのDNAの中に残る「超越的なものを畏怖する気持ち」をONにしておくために、そのような装置を用いたのである。・・・・・


・・・・・私は骨の髄まで合理的でビジネスライクな人間である。
その私が言っているのだから、どうか信じて欲しい。
今日本人がまずなすべきなのは「原発供養」である。
すでに「あのお方」がなされているとは思うが。・・・・・

症例で学ぶ大腸癌ーポリープの顕微鏡アトラス(大腸癌研究会)

鋸歯状病変について手っ取り早くその実態を知りたければアトラスを見るにしくはない。大腸癌研究会には格好のアトラスシリーズがあり、この第十回目の演題が「大腸鋸歯状病変」である。済生会川口総合病院の病理の伴慎一博士がまとめておられる。きれいなアトラスではあるが、しかしながら、この病態の「落ち着きどころ」が明らかになっているとはとても思えない。



症例で学ぶ大腸癌ーポリープの顕微鏡アトラス(大腸癌研究会)

このアトラスには大腸鋸歯状病変が何度もいろいろな演者によって紹介されている。
  1. 第1回 大腸非腫瘍性ポリープ 西上 隆之 ほか兵庫医科大学病理学 教授

  2. 第2回 大腸良性腫瘍(上皮性・非上皮性) 和田 了 順天堂大学医学部附属静岡病院病理診断科 科長・検査室長

  3. 第3回 大腸早期癌 菅井 有 岩手医科大学病理学講座分子診断病理学分野 教授

    そして

  4. 第10回 鋸歯状病変の病理組織 伴 慎一 済生会川口総合病院病理診断科 主任部長
小生の理解力不足なのであろうが、やはりわからない。嗚呼。

大腸過形成性ポリープ:最近の「こまった」話題

大腸の過形成性ポリープの一部に発癌ポテンシャルを持つ一群が混在するという報告がある。最近このような動きがちらつくようである。
これはとても困る。過形成は過形成であって、hyperplasticはあくまでself limittedであるから、すなわち良性でなくてはいけない・・・・・・というのが病理学の基本原理である。これがゆらぐようでは困るのである。

このようなサブタイプに私たちが遭遇するとして、結果「取り逃がさない」「見逃さなければ」それでいいのだが、その大腸ファイバー観察上の特徴はなんだろう?よくわからないのが現状である。

右側大腸にあり、大きさは10mmは越えている。有茎というよりは無茎性ポリープであり、肉眼的に「あっ、これsessile adenomaかも」なんていう印象を持つ一群の中に含まれてくるようだ。 EMR.ESDの病理組織の結果にSSA/SSPなんていう診断名がついてくる可能性がある。これをsessile serrated adenoma/ sessile serrated polypという。あえて日本語化すると無茎性鋸歯状腺腫/無茎性鋸歯状ポリープ、こんなやつ↓である。


私たち臨床家としては結果として癌を見逃さなければ良いのである。あるいは高頻度で癌化する前癌病変を見逃さなければ良いのだが、それでも「過形成性ポリープ」の中に癌化する可能性があるものがあるというような「物騒な」表現は気持ち悪い。病理が「過形成性」とつけるのなら、それは癌であっては困る。

病理学者は、一般臨床家の前で公言する前に、コンセンサスを作っておいて欲しい。病理は基本HEによる顕微鏡レベルの形態学的診断を本旨とする。過形成性組織像に似ているが、やはり違うということをきちんとさせてそんな一群には「過形成性という言葉を迂回した病理組織学的診断名」を付けて欲しい。

いやそこの貴方私ら病理学者はいちども過形成性ポリープが癌化するとはいっとらんぞ、私らがいっておるのは「大腸鋸歯状病変」というサブグループのことであるぞ。とあなた方は言われるかも知れない。でも文献・テキストを読みますと、病理で鋸歯状病変といえばそれは過形成性変化を指すのではないでしょうか?実にわかりにくいのね。
ところでこんな病変が癌化する可能性はどれくらいあるのだろう?

大腸病理の専門家の仕事でこんな報告もある。



胃と腸 ISSN 0536-2180 (Print) ISSN 1882-1219 (Online) 42巻3号(2007.03)P.288-298(ISID:1403100966)

大腸鋸歯状病変の発生と発育進展─発育進展―鋸歯状腺腫と過形成性ポリープの癌化

原岡 誠司 ※1
岩下 明徳 ※1
太田 敦子 ※1

※1 福岡大学筑紫病院病理部

【キーワード】 serrated adenoma,hyperplastic polyp,癌化,cytokeratin,粘液形質


 癌を合併した鋸歯状腺腫(SA)14病変および癌を合併した過形成性ポリープ(HP)11病変について,臨床病理学的に検討した.発生部位は癌合併SAの64%,癌合併HPの80%が盲腸~横行結腸であり,右側結腸に多くみられ,病変の大きさは両者 ともに平均16mmであった.肉眼形態は癌合併SAは有茎性隆起が多く,癌合併HPでは無茎性隆起が多かった.癌の多くは粘膜内に限局する高分化腺癌 で,SA成分やHP成分より構成割合の少ない病変が多く認められた.免疫組織学的にcytokeratin(CK)7は,癌合併SAにおけるSAで 35.7%,癌部で50%に陽性であり,癌合併HPではHPで27.3%,癌部では36.4%が陽性であった.特に癌合併SAにおける癌部の50%は CK7+/CK20+であった.癌を合併するSAおよびHPにおけるCK7の発現頻度は癌病巣で最も高く,次いでSA,HPという傾向がみられた.粘液形 質の発現については混合型(胃腺窩上皮型+腸型)粘液形質の発現(MUC5AC+/MUC2+)を示すものが,癌合併SAにおけるSAで78.6%,癌部 は42.9%,癌合併HPのHPは全病変で,その癌部では90.9%を占めた.癌合併SA病変において胃型粘液形質を発現する頻度は高く,癌合併HP病変 においてはその多くがHP,癌成分ともに胃型粘液形質を発現していた.以上より,SAおよびHPに合併する癌は,通常の大腸癌とは異なる,併存病変に類似 した免疫組織学的特徴を有するものがあり,SAおよびHPは一部の大腸癌の前駆病変であることが示唆された.

福大筑紫病院で14例、11例であるから推して知るべしといったところなのかもしれないな。

2011年4月5日火曜日

粘液嚢胞


↑のような人がやってきた。これは「粘液嚢胞」だ。よく見るようで、余りみない。問題はこいつの治療だ。



口唇には「小唾液腺」が数多くあるのだそうだ。この腺ごと切除するのが基本らしい。

すでに破れた状態で来る患者もいる。こいつは厄介だ。破れた状態から更に切除を追加するという発想がなかなか湧かないからだ。

でも追加切除しないと治らない。よくわからないときは、信頼できる皮膚科(場合によっては歯科)の先生にお願いしよう。いつまでもなかなか良くならないまま、信用を失うのはつらいからね。

ちなみに手術の保険点数は

K421-1  口唇腫瘍摘出術変更なし.

1 粘液嚢胞摘出術 910点  9,100円(3割負担では 2,730円)

  • この点数には異議ありである。だって露出部の皮膚腫瘍切除術は2cm以下でも1660点(16600円)なんだよ。口唇の外側部を皮膚露出部と解釈するのは無理かしら。なんとなく歯科の現状を暗示する点数配分のような気がする。



参考文献

粘液嚢胞

五百蔵一男, 小笠原健文
町田市民病院歯科・歯科口腔外科
歯界展望, 107(4) : 773-777, 2006.

この5ページの論文は素晴らしい!歯科医のお医者さんが書かれたものだが、非歯科、非口腔外科、非耳鼻科、非皮膚科の医者(すなわち一般の外科医や整形外科医)にも、充分役に立つ。

↓のイメージくらいの切除は必要と言うことだ。






なお「粘液嚢胞」というと全身どこにでもできる、余りにもありふれた一般的な名前に思われるかもしれないが、これが大いなる間違いなのである。これは口腔に限定されるかなりかたよりのある病気のようである。

すなわち 粘液嚢胞=口腔・口唇(しかも口唇にできるならほとんどが下口唇)

ついでにいえば口腔内にできるものに「がま腫」がある。

2011年4月3日日曜日

腹痛にまつわる三題話:ちと無理あるか?

腹痛で来院、急性腹症を呈するが、併せて両下肢の運動障害を伴っている。この30歳の女性の病態として何を考えるか?
この腹症例えば実はひどい下痢をしていたとする。それに運動障害もあるのである。

医学部の内科の試験なら感染症を想定した出題になるはずである。この運動障害はGBSというのが出題者の意図となろう。しかしこの二つの病態が初診の時点で出現しているというのは普通あまりないことではないか?・・・・・(1)

さてこの30歳の女性(下痢の話は忘れて欲しい。急性腹症症状である)であるが、外来のベッド上で泣き叫び、わめき、研修医はどうしてよいのかわからずおろおろ。さすがに上級医はその割には症状に重篤感がないことに気が付いており、昔のいい方で言えば「ヒステリー」ではないかとの印象を持っている。一旦ヒステリーと見てしまうと、あらゆる症状が嘘っぽく見えるのだが、しかし再び腹痛が強烈になり、この症状に嘘はなさそう。これはいったいなんなのだ?

  1. 腹部症状: 急性腹症を思わせるが、器質的異常は認めない
  2. 精神症状: ヒステリーを思わせる
  3. 神経症状: 四肢麻痺、球麻痺など

以上の3症状を呈する病態は何なのであろう?   長く臨床をやっている消化器外科の部長クラスの年代には(一般的には)辛い設問であろう。国家試験直前の医学生にはお茶の子さいさいの問題のはず。・・・・・・・・・・・・・・(2)

もって回ったいい方はもうやめよう。もとより無理があるのはわかっている。これはポルフィリアを想定した設問なのである。

さてこんなことを書いたのもNEJMの今週のイメージを見たからだ。エチブロを陰嚢にこぼした哀れな男の写真である(嘘)

今週のNEJMイメージはセルビアからのもので、陰嚢が蛍光ピンクで光っている。皮膚に沈着したコプロプロフィリンが光っているのである。一筋縄ではいかないのはこれがポルフィリア症とは無関係の病態であること。これは
Corynebacterium minutissimumというばい菌が感染した皮膚病によるラッシュであり、このばい菌の代謝産物がコプロプロフィリンと説明されている。

Images in Clinical Medicine

Coral-Red Fluorescence

Ivana Binic, M.D., Ph.D., and Aleksandar Jankovic, M.D., Ph.D.
N Engl J Med 2011; 364:e25March 31, 2011

もちろん覚えても何の足しにもならない病気だ。しかし今週号のNEJMのMedical Imageを見ながらいくつものことを思い出したのである。

  1. このイメージを見て実験室の暗室を思い出したのである。ゲル電気泳動後の紫外線でエチブロ(エチジウム・ブロミド)を光らせるあの過程を思い出したのである。よく似ているよな。

  2. ポルフィリン症は学生の頃「急性腹症」の鑑別疾患として覚えたが、一回もお目にかかったことがないこと。

  3. 先日我が病院の病院長ー循環器内科医ー尊敬すべきお医者様であるーこの方に、ある患者の診察をして頂いたら、カルテの欄外に小さな字で「ポルフィリア?」とあったのを見て、内科のお医者様はいつもこんな事まで想定しているのかと感心したこと。

  4. 東京医大の光線治療ー今もやっているのだろうか?肺癌患者にある薬を注射する。この薬は光毒性が強く、注射後は日光暴露は控えるように指示される。薬は癌部への集積性が高く(抗体とconjugeteだったかな?)その後、気管支内視鏡によるレーザー治療を受けるという案配だ。もう何十年も前の発想である。この薬剤がたしかポルフィリンと関係していたように記憶する。

  5. 一昨日母校の生化学の教授と本屋で偶然遭遇し、四方山話をした折りに「代謝は大事なのよ」と言われたこと。なぜかヘムの代謝を思い出した小生は異常だろうな。詳細は覚えていないがポルフィリンはヘムの代謝関連物質であったはず。
引き出しは多い方がよいので、まあ一生お目にかからないだろうポルフィリアについてつらつら書いてみた。こんなことをすると、翌週ふらっと出会ったりすることもある。まあそんなことは、まずないが・・・まずないだろうな・・・。


最後に・・・・・(1)について、キャンピロバクター腸炎とその後のギランバレー症候群は覚えておかなくてはいけないことだ。

2011年4月1日金曜日

ウニの細胞分裂動画:こちらもきれいだ

ウニの細胞分裂を28個同調してみたもの。




Polymerization Pulls (George von Dassow, University of Oregon)

赤がG1ー黄色が早期Sー緑が晩期SとG2を表す細胞分裂動画

By Teresa Davoli, Eros Lazzerini Denchi, and Titia de Lange, The Rockefeller University

Although biologists have been watching cells divide under the microscope for ~150 years, visualizing the steps of interphase in live cells has been difficult. In 2008 Sakaue-Sawano et al. developed a clever method, called FUCCI imaging, to watch a critical decision during interphase - the choice to start replicating DNA.

Image: In FUCCI imaging, red and green fluorescent proteins are fused to two interphase regulators, Cdt1 and Geminin, respectively. Cdt1 exists only during G1 and early S phase, whereas Geminin exists during S/G2. Thus, cells appear red in G1, yellow in early S, and green in late S and G2 phases. Here human fibroblasts are visualized by time-lapse live-cell imaging (phase-contrast and fluorescent images acquired every 15 min with 10X objective).

赤がG1黄色が早期S緑が晩期SとG2を表す細胞分裂動画