2012年5月29日火曜日

価格差ほどの音の違いはあるのか?:CDプレーヤー編

ストラディバリの場合、結果的に現代のバイオリンが選ばれていることから、ブラインド試験で差が認められたということになる。
一流演奏家にストラディバリは好まれなかったのである。

もう一度確認するがこの試験のendpointは「どちらがストラディバリか当ててご覧なさい」ではなく「好きなバイオリンはどちらですか」。最後に何気なく触れられていたが、「どちらがストラディバリ」と聞いても弁別は不能だったらしい。

このストラディバリの例を出したのは、これがダブルブラインド(二重盲検法)の好例だからだ。こういった検証をオーディオ機器で大々的に日本でもやったら良いと思う。面白いと思う。

さて、次にいこう。次はプレーヤーであるが、志賀先生のご意見だとプレーヤーは一万円程度でも充分ではないかと大胆である。
  1. アンプ
  2. (CD)プレーヤー
  3. 電源
  4. ケーブル 等々である。

プレーヤーも高いのになると数十万するのであるが、大体は高い機械はメキャニクスを売りにしている。正確なモーターの回転数、光の検出器等々。しかしながらこれらの技術は、現在すでに最高レベルに到達し、それがあらゆる価格帯のプレーヤーに波及しているというのが真実であり、安いパソコンに付属しているCD再生トレイレベルでもで機能的に充分だというのだ。以下に引用することを小生は知らなかった。すなわち・・・・・

  • CD情報は一旦読まれた後、プレーヤーのメモリ上に蓄えられる。ここで情報の正誤チェックを行い、誤った情報、飛ばされた情報があれば
  1. もう一度読みにいって情報校正を行う、
  2. 読めないビット情報であれば、前後の情報から補間するという。
  • 極めて短時間の間に、CDプレーヤーは以上のようなことを行い、情報を再確認しているわけだ。私たちが通常パソコンで使用するCDトレイでも同様のプロセスが行われるが、誤ったCD情報を読むことなど今現在ほとんどないというのが小生の実感であるし、実際には大衆機であっても極めて正確なのだと記述されている。さらに追加すれば(2)に挙げた「前後情報からの補間」はほとんど行われていないらしい(行う必要が無い)。
  • 大事なことは、安いCDプレイヤーであっても、今時分の機械なら、これくらいのことは朝飯前だということである。パソコン付属のCDトレイと10万円のプレーヤーの読み取り機構に大きな違いはないということである。

  • さて、「CD盤上の走査スピードが、演奏されるスピードを決めているわけではない」という事実は意外に知られていない。CDが正確に回らないと、きちんとしたリズムが刻まれないわけではないのだ。実際CDでは読みにくい場所は、何度も読みにいって、正確さを期しているである。スピーカーで実音になるコンマ数秒前にCDプレイヤーではいろんなことが行われているのだ。読み込まれた情報が、きちんとビットチェックされて、整列されて初めて次のプロセスに移る。すなわち正確な液晶時計のクロックに合わせて、プレーヤーからアンプに出力されているのである。正確なリズムはメモリーに記憶された後で作られるのであって、CD盤上では実際は検出器が右往左往しながら情報を読みなおしていることは大いに予想されるのである。そうであれば、CDを回転させるモーターがそこまで正確である必要はないのである。
  • では正確な音楽情報はどう扱われるのか?実は一旦読まれたメモリー情報を、極めて正確な液晶クロックに合わせて、アンプに送り込めればよいのである。この液晶クロックを売りにする高価プレーヤーもあるらしいが、最高度の時刻を刻む液晶であっても原価数百円というのが相場なのだという。ここで高級感をだしてもお門違いということだ。クロックの種類では事実上音質に影響を与えない。

一言で行って現在販売されている「CDプレーヤー」の技術は最高レベルにとうの昔に到達しており、しかもその技術がパソコンの普及に伴い、どのような安価な機器にまで及んでいるというのだ。

以上の理由から、プレーヤーは一万円で充分だといわれる。さてさて皆様どう思われるであろうか?

2012年5月28日月曜日

オーディオ業界の不思議:価格差ほどの音の違いはあるのか?

オーディオ業界の不思議:価格差ほどの音の違いはあるのか?
古くて新しいテーマである。スピーカーには差があると思う。これに異論があるひとは余りいないようだ。

問題は

  1. アンプ
  2. (CD)プレーヤー
  3. 電源
  4. ケーブル 等々である。

アンプの至適価格(対費用効果比が最大になる価格のことである)はいったいいくらくらいなのだろう? 5万円だろうか、10万円であろうか、30万円であろうか、100万円であろうか?これがなかなかわからない。いろんな雑誌をみるとカタログは昔ながらに楽しいのであるが、これはこれで虚構の世界であるような気もするのである。

最近10万円くらいから上は皆同じであるという意見をネットで見つけじっくり読み込んでいる。京都大学の教授を長らくされていた志賀先生という工学部の先生のHPであり、これが面白いのである。この先生は材料工学/磁性体の専門家であり、なかなか説得力があるのである。彼の主張は

  1. オーディオ機器の差を検証したいのなら、ダブル・ブラインドで試聴試験をやって、「差がある」という、その差が本物かどうか検証しなければ認めないという立場である。日本では一切このような検証が行われてこなかった。

  2. 一方欧米ではこの種類の検証試験がいくつか行われており、それらダブル・ブラインド試験の結果をHPでいくつか解説してあるが、100万円のアンプと10万円のアンプの差を見分けることは、ダブルブラインド試験では、プロのオーディオ評論家や音楽家であっても無理であったことを紹介している。
これをどう考えたらよいのであろうか?

話は変わるが、最近PNASに「ストラディバリウス」と「現代のバイオリン」をダブル・ブラインドで一流の音楽家に(弾き)聞き分けさせる検証試験が掲載され話題になっていた。一流の耳を持った彼らが選んだバイオリンはどちらであったか?
「現代のバイオリン」がより好まれたというのがその結果なのだ。いかにもありそうな話だが、でもなんか興ざめの実験であるな。


PNAS

Player preferences among new and old violins


Claudia Fritza, Joseph Curtinb, Jacques Poitevineaua, Palmer Morrel-Samuelsc, and Fan-Chia Taod

Abstract

  • Most violinists believe that instruments by Stradivari and Guarneri “del Gesu” are tonally superior to other violins—and to new violins in particular. Many mechanical and acoustical factors have been proposed to account for this superiority; however, the fundamental premise of tonal superiority has not yet been properly investigated. Player's judgments about a Stradivari's sound may be biased by the violin's extraordinary monetary value and historical importance, but no studies designed to preclude such biasing factors have yet been published. We asked 21 experienced violinists to compare violins by Stradivari and Guarneri del Gesu with high-quality new instruments. The resulting preferences were based on the violinists’ individual experiences of playing the instruments under double-blind conditions in a room with relatively dry acoustics. We found that (i) the most-preferred violin was new; (ii) the least-preferred was by Stradivari; (iii) there was scant correlation between an instrument's age and monetary value and its perceived quality; and (iv) most players seemed unable to tell whether their most-preferred instrument was new or old. These results present a striking challenge to conventional wisdom. Differences in taste among individual players, along with differences in playing qualities among individual instruments, appear more important than any general differences between new and old violins. Rather than searching for the “secret” of Stradivari, future research might best focused on how violinists evaluate instruments, on which specific playing qualities are most important to them, and on how these qualities relate to measurable attributes of the instruments, whether old or new.


2012年5月27日日曜日

オーディオを更新したいのだが・・・

小生は音楽を聴くことを趣味、といおうか、もっとも日常的な楽しみとしている。その楽しみの場所は往復の通勤の車の中である。3年前は30分だった通勤時間が今では45分程度かかるようになったために、聴ける音楽が長くなった。最近の車のオーディオはなかなか良いので、iPodに山のように詰め込んだ音源を楽しんでいるのである。

自宅には現在オーディオシステムを持たない。持たなくなって4年になろうか。5年前までは一軒家に住んでおり、深夜の12時にボリュームを12時にしてマーラーを聴こうが誰も文句を言うヒトがいなかった。そんな一軒家に6年くらい居たのだが、今はだめなのだ。今の住まいは集合住宅であるから、音が出せないのである。そんなわけで一切のオーディオシステムを放棄して引っ越ししてきたのだ。BOSEの一体型のコンポ(よく広告でみるでしょ、置物のような小さなやつ)を新たに購入したのと、あとはちょっと値の張るBOSEの
イヤースピーカー(ヘッドフォンですね)だけである。

しかし、最近またぞろオーディオを揃えてもいいかなと思い出した。今の住環境だとボリュームが12時→9時の世界になるわけだが、それでも欲しくなってきているのには訳がある。最近ネット(PC)オーディオというのが利用できるようになってきているのを知ったからだ。1960~70年代に録音された優れた音源が素晴らしい音質でネットを介して手に入るようになってきたのだ。クラシック、ジャズ、ロックなんでも揃っているらしい。こういうことを知ったきっかけは、例のビートルズのリマスター版の発売である。当時(2009年)はCD版が話題になり、小生の悪友たちはこぞって購入したものだ。連中またぞろ年貢を納めたわけだな。小生は買うほどの物ではなかろうと思っていた(TSUTAYAからは借りたが)。実はこのとき

The Beatles [USB] [Limited Edition, Import, from US]
ザ・ビートルズ |
価格: ¥ 29,999

The Beatles [USB]

というものが同時に発売されていた。青いリンゴの形をしたUSBに24bit formatの音源が入っている(とのこと)。この24ビット音源というのが今の流行のようなのだ。

だいたい小生はこの手の流行物に弱いのである。乗り遅れるのである。もっとも乗り遅れて、「しまった」と思ったことはほとんどない。MP3やSACDなんか全く興味がなかったけど、困ったことないもの、これまで。

しかし今回は違う。これには乗ってみようと思うのだ。乗らないときっと後悔すると思うのだ。いくつか理由があるが、一番大きいのは、
iMacとオーディオと音源ソースと映画とテレビが一体化出来そうな環境がようやく訪れようとしていると強く思えるようになったからだ。
本屋で雑誌を見ていると、PCの雑誌とオーディオ雑誌が渾然としてきている。この辺りの雑誌を二〜三冊五月の連休で読んでみたが、まだまだ未成熟とはいえ、今後何が飛び出してくるかわからない活気があるのだ。読んでみてわかったことは、マックでいう Time Capsule(のようなもの)音楽サーバーになり(NASというらしい)これにDA converterというものがつながれば、あとは高品質の音源が既存のオーディオ体系につながるようだ。このDA converterというのはいわゆるCDプレイヤーの大部分をしめるハードウェアなので、気が利いたCDプレイヤーには初めから付属していると考えて良い。マックの場合今後のTime Capsuleの扱われ方、あるいはApple TVの行く末が期待を持って待たれるのだ。

いずれにしても、ようやく最小の機器数と最小の配線数で「家庭内のオーディオと音源ソースと映画とテレビ」がマック一台で一元化できる環境が揃うことが予感される。小生の理想としては、物理的な配線はプリメインアンプとスピーカーの間のみで、残りは全てHiFi無線というのがいい

部屋がスッキリするではないか。おそらく次のiMacはTVと一体化するか、あるいはTVを支配する形になると予想する。職場のPCで家のテレビ録画予約をするのにiCalに書き込むというイメージ。iPhoneでもいいのだけど、iCloudにTVが乗っかかってくるのではないかな。


もっとも期待したいのは、Googleによる検索が今晩から数週間くらいのテレビ番組と連動し、予約が可能になること。例えば「小津安二郎」とでも入れれば2週間後のWowwowで放映予定の「麦秋」を捜してくる。

更にNHKのアーカイブ画像と連動すればもっとよいな。1960年頃の「新日本紀行」と「ねぶた」でググると、いくつかアーカイブが検索されそれを(有料でもよいから)ネットで見ることができる。1980年代の「ホロビッツ」「骨董」で例の来日コンサートが直ちに試聴できる(それも高品質音源で)ようになれば良い。

こういうことが現実化して、初めてネットとTVの連繋が本ものになる。そんな予感がするので、オーディオ環境を新たに作ろうと思っているのだ。

さて、具体的に何を買おう・・・?  

3ヶ月位でスピーカーとアンプとCDプレイヤー(iPODからもいい音が出るヤツ)を選びたいと思い、5月に入り3回ほどオーディオ専門店に足を運んだが、まあおそろしく敷居が高いこと。「貴君など端から相手にしておりませんぞ、当店は」という感じである。ちょっと困っております。

2012年5月25日金曜日

子宮平滑筋腫とMED12遺伝子変異のその後

良性腫瘍における高頻度遺伝子変異である。4報出ているのに気がついた。

  1. Mutational analysis of MED12 exon 2 in uterine leiomyoma and other common tumors.
    Je EM, Kim MR, Min KO, Yoo NJ, Lee SH.

    Int J Cancer. 2012 Apr 24. doi: 10.1002/ijc.27610.

  2. Whole exome sequencing in a random sample of North American women with leiomyomas identifies MED12 mutations in majority of uterine leiomyomas.McGuire MM, Yatsenko A, Hoffner L, Jones M, Surti U, Rajkovic A.

    PLoS One. 2012;7(3):e33251. 2012 Mar 12.

  3. MED12 mutations in uterine fibroids-their relationship to cytogenetic subgroups.Markowski DN, Bartnitzke S, Löning T, Drieschner N, Helmke BM, Bullerdiek J

    .Int J Cancer. 2012 Jan 5.

  4. MED12, the mediator complex subunit 12 gene, is mutated at high frequency in uterine leiomyomas.Mäkinen N, Mehine M, Tolvanen J, Kaasinen E, Li Y, Lehtonen HJ, Gentile M, Yan J, Enge M, Taipale M, Aavikko M, Katainen R, Virolainen E, Böhling T, Koski TA, Launonen V, Sjöberg J, Taipale J, Vahteristo P, Aaltonen LA.

    Science
    . 2011 Oct 14;334(6053):252-5. 2011 Aug 25.

hairy cell leukemiaにおけるBRAF (V600E)全例変異のその後

昨年6月のhairy cell leukemiaにおけるBRAF (V600E)全例変異報告は衝撃的であった。この遺伝子のその後について3報noteしよう。



2011年6月19日日曜日

Hairly cell leukemiaで驚くべき遺伝子変異!:NEJM














今週号のNew England Journal of Medicineには驚いたのだ。Hairly cell leukemiaではBRAF変異が100%認められるという報告だ。希な病気だから興味が湧かないそこの貴方。BRAF変異なんて「なにそれ」といわれる方々よ。こんなこと(100%の遺伝子変異頻度)は、この世界に30年近くいる小生にも初めての経験なのだ。簡単にまとめてみよう。



(1)まず一報目はイタリアグループからの続報でありBloodに11月に報告されたもの62例全例で陽性とある

Blood November 9, 2011 blood-2011-08-368209

The BRAF V600E mutation in hairy cell leukemia and other mature B-cell neoplasms

Luca Arcaini1,*, Silvia Zibellini1, Emanuela Boveri2, Roberta Riboni2, Sara Rattotti1, Marzia Varettoni1, Maria Luisa Guerrera1, Marco Lucioni2, Annamaria Tenore1, Michele Merli3, Silvia Rizzi1, Lucia Morello1, Chiara Cavalloni1, Matteo C. Da Vià1, Marco Paulli2, and Mario Cazzola1

Department of Hematology Oncology,Department of Human Pathology, Fondazione IRCCS Policlinico San Matteo & University of Pavia, Pavia, Italy;Division of Hematology, Department of Internal Medicine, Ospedale di Circolo, Fondazione Macchi, Varese, Italy


  • Abstract: The somatically acquired V600E mutation of the BRAF gene has been recently described as a molecular marker of hairy cell leukemia (HCL). We developed an allele-specific PCR for this mutation, and studied 62 patients with HCL, one with HCL variant, 91 with splenic marginal zone lymphoma, 29 with Waldenström macroglobulinemia, and 57 with B-cell chronic lymphoproliferative disorders. The BRAF V600E mutation was detected in all HCL cases (62cases), and in only two of the remaining 178 patients. These two subjects had a B-cell chronic lymphoproliferative disorders that did not fulfill the diagnostic criteria for HCL. Despite the PCR positivity, the mutation could not be detected by Sanger sequencing in these two cases, suggesting that it was associated with a small subclone. We conclude that the BRAF V600E mutation is present in all HCL patients and that, in combination with clinical and morphological features, represents a reliable molecular marker for this condition.

(2)その後いくつか続報があるが、最新ではNIHからの続報がBloodに4月に報告されたもの:42例(79%)で陽性とある。こまかなサブタイプに触れているが、これはこの病気のclinical entityとも関わることであり、大目にみよう。全例ではないという報告がBloodに出たことは残念であるが、それでも79%は高い。治療の可能性があるからね。そしてその治療について最近NEJMにドイツのグループから報告が出た。

Blood April 5, 2012 vol. 119 no. 14 3330-3332
Both variant and IGHV4-34–expressing hairy cell leukemia lack the BRAF V600E mutation


Liqiang Xi1,*, Evgeny Arons2,*, Winnifred Navarro1, Katherine R. Calvo3, Maryalice Stetler-Stevenson1, Mark Raffeld1,†, and Robert J. Kreitman2,†

Laboratory of Pathology and 2Laboratory of Molecular Biology, National Cancer Institute, National Institutes of Health, Bethesda, MD; and 3Department of Laboratory Medicine, Clinical Center, National Institutes of Health, Bethesda, MD

Abstract

  • Recently, the BRAF V600E mutation was reported in all cases of hairy cell leukemia (HCL) but not in other peripheral B-cell neoplasms. We wished to confirm these results and assess BRAF status in well-characterized cases of HCL associated with poor prognosis, including the immunophenotypically defined HCL variant (HCLv) and HCL expressing the IGHV4-34 immunoglobulin rearrangement. Fifty-three classic HCL (HCLc) and 16 HCLv cases were analyzed for BRAF, including 5 HCLc and 8 HCLv expressing IGHV4-34. BRAF was mutated in 42 (79%) HCLc, but wild-type in 11 (21%) HCLc and 16 (100%) HCLv. All 13 IGHV4-34+ HCLs were wild-type. IGHV gene usage in the 11 HCLc BRAF wild-type cases included 5 IGHV4-34, 5 other, and 1 unknown. Our results suggest that HCLv and IGHV4-34+ HCLs have a different pathogenesis than HCLc and that a significant minority of other HCLc are also wild-type for BRAF V600.


(3)最近NELMにBRAF 抑制薬(vemurafenib) をHairy-Cell Leukemiaに使ったらよく効いたというドイツからの一例報告

N Engl J Med 2012; 366:2038-2040May 24, 2012
Correspondence
BRAF Inhibition in Refractory Hairy-Cell Leukemia

2012年5月23日水曜日

最近あの遺伝子たちはどうしてるのかしら・・・・

なにごとも経過観察は大事である。臨床しかり。研究もまたしかり。鳴り物入りで登場した遺伝子変異などは、続報で追認されて初めて本物らしさが受け入れられていくことになる。

数年経ってreview誌に取り上げられる遺伝子変異であれば、かなりの確度で本物である。そこに引用されている論文を見れば、大体のことはわかる。ところが続報の多くはビッグジャーナルには載らないので、ともすれば見逃してしまうことも多い。「そういえば、あの遺伝子どうなったかなあ?」

ここ5年くらい変異遺伝子発見のラッシュが続き、研究者がフォローするのがなかなかに困難な状況が続いている。日本語の良い総説があればよいのだが、見当たらないようだ。実際、日本の代表的な月刊誌「実験医学」「細胞工学」の目次を過去2年眺めてみたが、癌ゲノム遺伝子変異を特集した冊子(あるいは特集記事)がないことに気がついた。これには驚いた。遺伝子変異という研究領域は日本の研究者の皆様の興味から離れてしまっているらしい。残念でならないが、どうしたことだろうね。

ひとつには全体を通観できる雑誌編集者がいないということなのだろうと思うな。
あるいは、全体を見渡せる研究者もいないようだ。無理も無い。ある日は乳癌から、ある日は前立腺癌から、ある日は髄芽細胞腫(脳腫瘍)から変異遺伝子が報告されるのである。全部に通じている研究者などいるはずもない。また最近の大きな研究ではdeep sequencingで大量のデータが出てくるので、これらのデータの渦の中から関連遺伝子情報を拾い上げるのはなかなか努力(論文付属のサプリメント・エクセルファイルなどをじっと読み込む努力)が必要なのである。

日本語で、癌関連遺伝子変異情報の現況をフォローするのは困難である。せめて自分がこのブログでノートした新規遺伝子のその後くらいはフォローしておかないといけない。最近、しみじみとそう思うな。ぼつぼつやっていこうと思うのだ。

2012年5月22日火曜日

日本人前立腺癌とTMPRSS2:ERG

固形癌(肉腫ではなく)で最初にrecurrent fusionが報告されたのはTMPRSS2:ERG gene fusion である。前立腺に固有のこの遺伝子変異はandrogen依存性であるが故に前立腺癌発症には説得力がある。日本人におけるその頻度を小生はよく知らなかった。文献をひもといたところ、日本人やアフリカーナや韓国人や・・・と結構人種ごとの頻度が報告されており、日本人は比較的低頻度であるようだ。
  1. 一つ目の論文ではその頻度は28%とのことである。
  2. 二つ目の論文は日本人とそれ以外で比較し、比較的低率の日本人は16%ということである。
  3. 他の遺伝子変異頻度と比較して、失望するほどの低頻度ではないことが判明した。
  4. 日本人前立腺でもTMPRSS2:ERG gene fusion は結構な頻度で認められるのだと評価できる。
Mod Pathol. 2010 Nov;23(11):1492-8.

ETS family-associated gene fusions in Japanese prostate cancer: analysis of 194 radical prostatectomy samples.

Miyagi Y, Sasaki T, Fujinami K, Sano J, Senga Y, Miura T, Kameda Y, Sakuma Y, Nakamura Y, Harada M, Tsuchiya E.
Source

Molecular Pathology and Genetics Division, Kanagawa Cancer Center Research Institute, Yokohama, Japan. miyagi@gancen.asahi.yokohama.jp

  • The incidence and clinical significance of the TMPRSS2:ERG gene fusion in prostate cancer has been investigated with contradictory results. It is now common knowledge that significant variability in gene alterations exists according to ethnic background in various kinds of cancer. In this study, we evaluated gene fusions involving the ETS gene family in Japanese prostate cancer. Total RNA from 194 formalin-fixed and paraffin-embedded prostate cancer samples obtained by radical prostatectomy was subjected to reverse-transcriptase polymerase chain reaction to detect the common TMPRSS2:ERG T1-E4 and T1-E5 fusion transcripts and five other non-TMPRSS2:ERG fusion transcripts. We identified 54 TMPRSS2:ERG-positive cases (54/194, 28%) and two HNRPA2B1:ETV1-positive cases (2/194, 1%). The SLC45A3-ELK4 transcript, a fusion transcript without structural gene rearrangement, was detectable in five cases (5/194, 3%). The frequencies of both TMPRSS2:ERG- and non-TMPRSS2:ERG-positive cases were lower than those reported for European, North American or Brazilian patients. Internodular heterogeneity of TMPRSS2:ERG was observed in 5 out of 11 multifocal cases (45%); a frequency similar to that found in European and North American cases. We found a positive correlation between the TMPRSS2:ERG fusion and a Gleason score of ≤7 and patient age, but found no relationship with pT stage or plasma prostate-specific antigen concentration. To exclude the possibility that Japanese prostate cancer displays novel TMPRSS2:ERG transcript variants or has unique 5' fusion partners for the ETS genes, we performed 5' RACE using fresh-frozen prostate cancer samples. We identified only the normal 5' cDNA ends for ERG, ETV1 and ETV5 in fusion-negative cases. Because we identified a relatively low frequency of TMPRSS2:ERG and other fusions, further evaluation is required before this promising molecular marker should be introduced into the management of Japanese prostate cancer patients.

Prostate. 2011 Apr;71(5):489-97.
TMPRSS2-ERG gene fusion prevalence and class are significantly different in prostate cancer of Caucasian, African-American and Japanese patients.
Magi-Galluzzi C, Tsusuki T, Elson P, Simmerman K, LaFargue C, Esgueva R, Klein E, Rubin MA, Zhou M.


Department of Anatomic Pathology, Cleveland Clinic, Cleveland, Ohio 44195, USA.

  • BACKGROUND:
    Prostate cancer (PCa) exhibits significant differences in prevalence and mortality among different ethnic groups. The underlying genetics is not well understood. TMPRSS2-ERG fusion is a common recurrent chromosomal aberration in PCa and is however not studied among different ethnic groups. We examined the prevalence and class of TMPRSS2-ERG gene fusion in PCa from Caucasian, African-American, and Japanese patients.
    MATERIALS AND METHODS:
    A tissue microarray of PCa from 42 Caucasians, 64 African-Americans, and 44 Japanese patients who underwent radical prostatectomies (RP) was studied for TMPRSS2-ERG fusion using a multicolor interphase fluorescence in situ hybridization assay for ERG gene break-apart.
    RESULTS:
    TMPRSS2-ERG gene fusion was present in 50% (21/42) of Caucasians, 31.3% (20/64) of African-Americans, and 15.9% (7/44) of Japanese (P=0.003). The gene fusion through translocation, deletion, or both occurred in 61.9% (13/21), 38.1% (8/21), and 0% (0/21) in Caucasians, 20% (4/20), 60% (12/20), and 20% (4/20) in African-Americans, and 71.4% (5/7), 28.6% (2/7), and 0% (0/7) in Japanese patients (P=0.02). A multivariate analysis demonstrated that TMPRSS2-ERG gene fusion correlated with the ethnicity (P=0.03), marginally correlated with the pathologic stage (P=0.06), but not other clinicopathologic parameters, including age, preoperative PSA levels, and Gleason score.
    CONCLUSIONS:
    The prevalence and class of TMPRSS2-ERG are significantly different in PCa of Caucasian, African-American, and Japanese patients. Future studies of the molecular pathways implicated in TMPRSS2-ERG gene fusion may shed light on the disparity in prevalence and mortality of PCa among different ethnic groups and help design better prevention and treatment strategies.

2012年5月21日月曜日

ARID遺伝子変異をめぐる小論

reverse genetics(懐かしい言葉だ)が盛隆を極めるようになって以来、ある疾患で変異がみつかることにより、いきなりそれまで聞いたこともない遺伝子がもてはやされるようになった。昔ながらの順遺伝学なら、まず蛋白があって、その機能から敷衍して、異常に至るというのが「正しい」学問だったのであろうが、或る時期以来、それまで聞いたことが無い「遺伝子名」が大手をふるうようになる。これはとてもこまることだ。馴染みがないからねえ。

さて、癌化にとって最近無視できないのがARID遺伝子変異である。ARIDってなんなんだろう?reverse geneticsではなにしろ「いきなりの脚光」が通例であるから、この遺伝子ならこの人に聞けば良い、というのがなかなかわからない。おそらく知らないのは自分だけでない。多くの場合、発見者も機能を知らないことが多いという始末だ。よく学会で出会う光景である。「貴方の発見した遺伝子の機能を教えて欲しい」と言われて、しどろもどろのスピーカー。

さてさてこのARIDというのはゲノムDNAが転写されたり、増幅したりするとき形態を変えるーすなわち、ほぐれる、ループを作る、ループを解消するー締まる、等々の変化に関連する蛋白遺伝子のようだ。SWI/SNFという遺伝子群があるが、その構成要素の一つのようだ。この遺伝子群にはとても多くの構成メンバーがあるが、これを全部列挙するのは止めておこう。ここでは癌、あくまでも癌化に関連する要素メンバーだけを挙げておこう。5つ知られている。


  1. SNF5
  2. ARID1A
  3. BAF180
  4. BRG1
  5. BRD7

である。実際にはSNF5とARID1Aだけ知っていれば良い。

  1. SNF5: Rhabdoid tumorの98%で変異を認める
  2. ARID1A:卵巣淡明細胞癌の50%、子宮内膜癌の 35%に変異を認める。

このパーセンテージの高さは尋常ではない。新規癌関連遺伝子としては例外的に高いのだ。


このARID1であるが、下の図(下記論文のFig 1)に登場する青い色のサブユニットである。よろしく。

















図の参考文献は下

Review

Nature Reviews Cancer 11, 481-492 (July 2011)

SWI/SNF nucleosome remodellers and cancer

Boris G. Wilson & Charles W. M. Roberts

SWI/SNF chromatin remodelling complexes use the energy of ATP hydrolysis to remodel nucleosomes and to modulate transcription. Growing evidence indicates that these complexes have a widespread role in tumour suppression, as inactivating mutations in several SWI/SNF subunits have recently been identified at a high frequency in a variety of cancers. However, the mechanisms by which mutations in these complexes drive tumorigenesis are unclear. In this Review we discuss the contributions of SWI/SNF mutations to cancer formation, examine their normal functions and discuss opportunities for novel therapeutic interventions for SWI/SNF-mutant cancers.

2012年5月18日金曜日

夜空:大マゼランと小マゼランを見たことがない人は必見!

オーストラリア南極海沿岸で取られた夜空の素晴らしい動画である。
数十秒後に満天の星空のなかに大マゼラン星雲と小マゼラン星雲が現れる。これは必見でしょう。



Terrastroより

腰椎化膿性脊椎炎

またまたやってきた化膿性脊椎炎である。急性腰痛症レッドフラグにはご用心

左下肢のしびれと疼痛が始まったのでMRIと整形受診したのだが、これが化膿性脊椎炎と診断された。
前回同様冷や汗ものであった


Title :
1-A-27. 腰椎化膿性脊椎炎の2例
Subtitle :
学会抄録 第108回東北整形災害外科学会
Authors :
五十嵐峻, 今泉秀樹, 大津進, 高野広之, 那波康隆
Authors (kana) :

Organization :
大崎市民病院
Journal :
東北整形災害外科学会雑誌
Volume :
55
Number :
1
Page :
170 - 170
Year/Month :
2011 / 6
Article :
抄録
Publisher :
東北整形災害外科学会
Abstract :




【はじめに】保存療法で軽快せず重度麻痺で手術をした腰椎化膿性脊椎炎の2症例を経験したので報告する.

【症例1】52歳男性. 主訴:左下肢麻痺, 膀胱直腸障害. 既往歴:糖尿病(未治療). 現病歴:平成21年2月から腰痛が出現. 3月10日近医を受診し, L3/4化膿性脊椎炎の診断で入院し抗生剤投与をうけた. しかし, 症状の改善がなく, 3月15日より左下肢麻痺と膀胱直腸障害が出現 したため当院に紹介搬送された. MRIでL3/4椎間板の破壊像とL3/4レベルに硬膜外膿瘍を疑わせる像が認められた. L3椎弓切除と硬膜外膿瘍の掻爬を行った. 膿培養は陰性だった. 術後, 下肢筋力の改善があり近医に転院した.

【症例2】73歳男性. 主訴:両下肢麻痺. 既往歴:特になし. 現病歴:平成21年7月末に腰殿痛が出現. 8月2日当科を受診し, 腰部神経根症と診断された. 8月10日CRP高値のため近医に入院して抗生剤投与をうけた. 症状が改善し8月31日退院した. しかし, 腰殿痛が再び悪化し9月7日から両下肢の麻痺も出現した. 9月17日L2/3の化膿性脊椎炎として当科に紹介された. MRIでL2/3椎間板の破壊像とL2椎体後面に硬膜外膿瘍を疑わせる像が捉えられた. L2椎弓切除と膿瘍の掻爬を行った. 膿培養でEnterococcusが検出された. 術後経過は良好で麻痺が改善し転院となった.

【考察】2症例とも発症から診断まで6~7週間を要していた. 起炎菌が同定できずに抗生剤投与が行われ, 保存療法が不十分だったことが共通していた.

2012年5月10日木曜日

つぶれた椎体がここまで再生するかね!:カルベ扁平椎 NEJM

Images in Clinical Medicine
Vertebra Plana with Spontaneous Healing

Pei-Yu Tsai, M.D., and Wen-Sheng Tzeng, M.D.
N Engl J Med 2012; 366:e30May 10, 2012

台湾からの症例報告である。
3歳の子供が背部痛を訴えて来たという。初診および8ヶ月のXpはいたたまれない。圧迫骨折した腰椎は一番目だが、今後の人生を考えると大変だ。ところで整形外科的には、このような病態の中に自然治癒が期待できる一群があるのだそうだ。病理組織学的にはEosinophilic Granuloma, Histiocytosis Xの分症として現れることもあるという。 個人的には研修医のころ極めて希なGiant cell reparative granuloma (GCRG)という病気に遭遇したことがあるので、このあたりの病気は無視できないのだ。GCRGも反応性の病態である。

いずれにしても子供の治癒力というか、再生力というのは素晴らしいものがありますね。ここのところ老人の圧迫骨折しかみたことがない小生としては、目を見張るような症例報告であった。
















Pei-Yu Tsai, M.D.
Wen-Sheng Tzeng, M.D.
Chi-Mei Medical Center, Tainan City, Taiwan