2012年10月19日金曜日

多発する皮下脂肪腫は血管脂肪腫?

昨日の午前外来の最後の中年男性はいきなり「脂肪腫を取ってくれ」とやって来た。見ると前胸部に20 mm 左背部に25 mmの皮下腫瘍を認めた。なぜ「脂肪腫」と彼は言ったのか?カルテをよく見ると5年前に当院外来で2個の別の場所の皮下腫瘤を切除しており、その時「脂肪腫でした」と言われたようだ。なるほど。

エコーをしてみたが、どの方向からみてもキレイに被包化された「脂肪腫」であった。ところが二個だけではないのだった。 上肢ー体幹だけで15個も脂肪腫があるのだった。まいったな。本人が気がついていないだけだ。で、どうしよう?

もともと営業マンで車のシートベルトが当たりこれが痛いので来院したという。なるほど。

で、速攻外来で切除した。痛みのある2個だけ。

この病理だけど、実は前回の病理は「血管脂肪腫」だったのだ。だいたい 血管脂肪腫を別扱いにする意味があるのであろうか? 調べてみた。

「外科病理学」(文光堂:向井清 他)によると「血管脂肪腫は一般の脂肪腫とことなるいくつかの特徴があるので区別して取り扱う方が良い」と記述がある。

  1. 一般に脂肪腫より小さく、普通1~2cmである。
  2. しばしば2個〜数個が集族してみつかる
  3. 思春期後に発症
  4. 上肢と胸腹壁に発症
  5. 鈍痛がある 
この方は鈍痛があった。普通の脂肪腫よりは若干硬い印象であるが、切除標本は脂肪そのものであった。古い文献には脂肪腫よりは若干固いという記述があった。悪性化については余り記述がないが、これだけ小さいと普通は心配するようなものではないだろう。単発の大きな脂肪腫の中には、高分化型の脂肪肉腫との鑑別が難しいものがあるというが、体表の血管脂肪腫であれば、そのような症例は希ではないかと思われる。

鈍痛・自発痛のある小腫瘤が皮下に多発している場合「血管脂肪腫」である可能性はかなり高いと考えられる。

皮下に多発性腫瘤を認める場合(軟部腫瘍診断ガイドライン)
  1. 多発性血管脂肪腫
  2. 多発性脂肪腫
  3. 神経線維腫症 I 型(von Recklinghausen病)
  4. 多発性神経鞘腫
  5. 多発性血管腫
  6. 皮下平滑筋腫
  7. 弾性線維腫(肩甲部にしばしば両側性)
  8. 線維腫症
     
    などが考えられる。

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