2012年10月25日木曜日

NEJM:大腸癌とPIK3CAとアスピリン:日本米国連合軍によるNEJM論文

東大、熊大、鹿児島大、札幌医大およびダナファーバーをはじめとするハーバード連合軍によるoriginal articleである。たいしたものである。  

結論は

「PIK3CAに変異を持つ大腸癌患者殿はアスピリンを常用したほうが予後が伸びますよ」


というものである。


PIK3CAは大腸癌一般ではどれくらいの変異率か?というのが気になるところであろう。当ブログでは大腸癌では最低でも15%と踏んでいた。


さて今回の論文では対象症例が964例であるが

アスピリン服用群413例中17%70例が変異陽性

アスピリン非服用群551例中17%91例が変異陽性

であり、過去の報告と比較しても陽性率に変わりはない。検索対象群には変な偏りはなさそうである。


なおPIの荻野周史さん(小生全く面識はありませんが)と
この研究の背景はここで知るとよい。


N Engl J Med 2012; 367:1596-1606  October 25, 2012

Aspirin Use, Tumor PIK3CA Mutation, and Colorectal-Cancer Survival

Xiaoyun Liao, M.D., Ph.D., Paul Lochhead, M.B., Ch.B., Reiko Nishihara, Ph.D., Teppei Morikawa, M.D., Ph.D., Aya Kuchiba, Ph.D., Mai Yamauchi, Ph.D., Yu Imamura, M.D., Ph.D., Zhi Rong Qian, M.D., Ph.D., Yoshifumi Baba, M.D., Ph.D., Kaori Shima, D.D.S., Ph.D., Ruifang Sun, M.B., Katsuhiko Nosho, M.D., Ph.D., Jeffrey A. Meyerhardt, M.D., M.P.H., Edward Giovannucci, M.D., M.P.H., Sc.D., Charles S. Fuchs, M.D., M.P.H., Andrew T. Chan, M.D., M.P.H., and Shuji Ogino, M.D., Ph.D.

Background

Regular use of aspirin after a diagnosis of colon cancer has been associated with a superior clinical outcome. Experimental evidence suggests that inhibition of prostaglandin-endoperoxide synthase 2 (PTGS2) (also known as cyclooxygenase-2) by aspirin down-regulates phosphatidylinositol 3-kinase (PI3K) signaling activity. We hypothesized that the effect of aspirin on survival and prognosis in patients with cancers characterized by mutated PIK3CA (the phosphatidylinositol-4,5-bisphosphonate 3-kinase, catalytic subunit alpha polypeptide gene) might differ from the effect among those with wild-type PIK3CA cancers.

Methods

We obtained data on 964 patients with rectal or colon cancer from the Nurses' Health Study and the Health Professionals Follow-up Study, including data on aspirin use after diagnosis and the presence or absence of PIK3CA mutation. We used a Cox proportional-hazards model to compute the multivariate hazard ratio for death. We examined tumor markers, including PTGS2, phosphorylated AKT, KRAS, BRAF, microsatellite instability, CpG island methylator phenotype, and methylation of long interspersed nucleotide element 1.






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このグラフだが簡単に言えばこうなるのだ。左上のグラフだが術後5年以内の癌関連死亡の比率を読むと・・・

            PIK3C変異群     PIK3C正常群
アスピリン服用群   3%  (2/62)        15%   
非服用群       26%(23/90)        15%

overall survivalでもほぼ半減しているこの研究を知ったことで大腸癌の術後(切除後)に調べなくてはいけない項目がまた増えましたな。k-ras、EGFRPIK3Cですかな。

ところで小生の在住する街では
k-rasを測ると保険の意見書を(まだ)書かされるのである。今朝も一件書いたところであった。これからはこんなのがどんどん増えてくるのかしらね。まあ良しとしよう。個人のテーラーメイドが現実化しているわけだからね

最後に一言。当研究は実はretrospectiveな研究なのである。対象患者たちが実際に手術を受けたのは1980年前後なのである。著者たちホルマリン標本(パラフィン標本)を掘り出してきて、遺伝子変異を調査したようだ。この対象群のアスピリン服用歴は何度も調べられている。もともと数万人が参加した研究を利用して、今の時代に繋げたという意味でも、非常に質の良い研究であると思う。

今後の課題はこの研究のprospectiveバージョンであろう。PIK3Cで層別化してあとは二重盲検でプラセボとバイアス投与でしょうかね。

ただ、この研究が出てしまったので、PIK3Cの変異がわかってしまった患者さんには、どうしてもバイアス投与させたくなりますな。 安い薬だし。なんせ一錠5円60銭である。本研究この薬を週3回程度服用していればよかった時代のものだが、それだとなんと一月70円程度の薬価なのだ。安いし安全だ 
 

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