2012年10月1日月曜日

乳癌の統合ゲノム解析:natureの近著

ここ数ヶ月、癌の世界で超大型の研究成果が続々と公表されている。まるでポストゲノムの集大成のようだ。
その流れの中で、今回乳癌のゲノム詳細レポートが報告された。

Comprehensive molecular portraits of human breast tumours 
The Cancer Genome Atlas Network
Nature (23 September 2012) 


この論文は乳癌ゲノム解析の最前線をポートレイトしてくれる。2010年代の基本論文となるであろう。
ここでLuminalやBasal-lilkeがア・プリオリに出てくることが時代の趨勢を感じさせる。古びることはなかったのである。
発現アレイ解析による初の「分子分類」は10年の歳月を堂々と生き残ったようである。(当たり前だとおっしゃるであろうが、それでも感無量である)
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Molecular portraits of human breast tumours
Nature 406, 747-752 (17 August 2000)

Charles M. Perou1,2, Therese Sørlie2,3, Michael B. Eisen1, Matt van de Rijn4, Stefanie S. Jeffrey5, Christian A. Rees1, Jonathan R. Pollack6, Douglas T. Ross6, Hilde Johnsen3, Lars A. Akslen7, Øystein Fluge8, Alexander Pergamenschikov1, Cheryl Williams1, Shirley X. Zhu4, Per E. Lønning9, Anne-Lise Børresen-Dale3, Patrick O. Brown6,10 & David Botstein1

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乳癌で発現アレイデータを元にした分子分類がPerouによって報告されたのが2000年。
その最初の論文以来10年たってもこの分子分類が生き残っていることにまず乾杯。

この間、臨床の世界ではluminal Basal-like HER2なる分類がいつの間にか免疫組織学的分類に変容、成り代わって、大手を振っており診療指針となるしまつ。まったく馬鹿な話がまかり通っている。免疫組織診断は実臨床には役に立つので構わないのだが、分類名でluminal Basal-like HER2を流用したがゆえに、あたかもその根拠がアレイ分子分類にあると誤解されているのが我慢ならない。下の表は今回の論文で唯一の表データであるが、よく見てほしい。本当に良く見て欲しいのが乳癌専門医の方々である。

この表におけるサブタイプの根拠が大事である。このサブタイプの定義は2000年から 変化したのであろうか?実験の詳細は本文中には記述がないが、サプリメンタルデータの中にはしっかり書かれていて、これは「522余例の乳癌のmRNAによるアジレントアレイ(Agilent)を用いた発現アレイデータでのクラスター解析による」と書かれており、基本は2000年の手法と変わらないのである。当たり前だが、アレイ発現データによる分類なのである。

  • mRNA Gene Expression Profiling Microarray processing Agilent custom 244K whole genome microarrays were hybridized and processed as previously described8. Raw data (level 1), probe-level data (level 2), and gene-level data (level 3) were deposited at the DCC.  
  • Identification of the intrinsic gene expression-based subtypes. Agilent microarray data for 522 tumors, 3 metastatic tumors, and 22 tumor-adjacent normal were combined and gene-median centered. The matrix was hierarchically clustered with an intrinsic subtype list compiled from four previous breast microarray studies. Using this cluster, we analyzed the sample relationships by SigClust19 and identified 13 classes. Samples were also subtyped by the 50-gene PAM50 predictor20. High concordance was seen between the SigClust and PAM50 subtypes calls. For simplicity, the PAM50 subtype calls were used for all analyses.


    この表がこの10年間生き残っていることにも感動する。




    SubtypeLuminal ALuminal BBasal-likeHER2E

    Percentages are based on 466 tumour overlap list. Amp, amplification; mut, mutation.

    ER+/HER2 (%)87821020
    HER2+ (%)715268
    TNBCs (%)21809
    1. Basal-likeと分類される患者の中には10%の割合でER陽性の患者がいること 
    2. トリプルネガティブはBasal-likeと80%しか重複しないこと 
    3. トリプルネガティブの患者の中には3% のLuminal typeと9%のHER2E typeが混じっていること


      こういったことは昔から知られていたわけだが、今回の検討でも確かめられている訳である。
      そろそろ免疫染色による分類には別のサブタイプ名称をつけなくては、混乱がひどくなると思うがね。

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