この言葉、最初に聞いたときは「当たり前やん!」と思ったし、その後は「業界」での使われ方からして全く納得がいかない、つまり、役に立たない言葉のような気がしていた。
ところで最近、この言葉の周辺を探る必要があり、提唱者のBernard Weinstein教授の3本の総説を読んで、あるいは教科書を読んで、なるほどと納得がいったことが若干あるのでまとめてみた。
使いようによっては「Oncogene Addiction」はなかなか魅力的な言葉だが、誤解されやすい言葉でもある。小生の「まとめ」は極論であるから注意されたし。
とはいえ、このくらい限定しないとこの「素敵な言葉」の切れ味は発揮されないと思うのだ。
- Weinstein教授は癌細胞株のcyclinD1の研究をしていた。この株はcyclinD1の発現量が過剰であり、この発現量を下げる工夫をしてみたところ、若干下げた段階で細胞は死んだ。健常発現レベルよりは随分高いレベルであるが死んだのだ。Weinstein教授は考えた。「この細胞が癌としての性質を維持するためには、高い量のcyclinD1が必要であり、この量を少し減らしても癌は自分を維持できない。正常細胞に戻ることもできない。死ぬ。この事象が示唆することは『癌細胞の中にはある特定の一つの遺伝子に依存してしまうものがあるらしい』ということである。1990年代後半のことである。
- これをWeinstein教授は直ちにOncogene Addictionと名付けたわけではない。
- これが概念として世に広がったのは、グリベック(1995年以来のDrucker )の華々しい治療成績があるのだ。なにしろグリベック単独投与で慢性骨髄性白血病細胞(CML)を(ほとんど)根絶できるのだから。このグリベックがBcr-Ablをターゲットにしている分子標的薬剤の皓歯であることは広く知られる。
- Bcr-Ablをターゲットにして グリベックは開発されたが、開発初期にこれがヒトCMLに投与されたとしてここまで効果があるとは誰も思っていなかったはずである。たった一つの遺伝子変化に癌化が依存しているなんて、当時の多段階発癌セオリーからしても考えにくいことだったはずだ。
- であるのに実際は臨床現場で効果が絶大であった。CMLにも個人間での多様性があるはずであるが、Bcr-Ablには例外なく依存していることがわかったわけである。
- これがOncogene Addictionの正しい概念を創出する現象であり、臨床的定義だったのである。
- 治療をするまではわからないのである。その腫瘍がある遺伝子に依存しているかどうかは。
- 小生がなるほどと納得いったのはこの「治療をするまでわからない」ということと、もうひとつ
- この世で Oncogene Addictionがあると認めてよいのはCMLにおけるBcr-Abだけのようであること。
- 変異をおこしたDriver遺伝子や融合遺伝子のなかに Oncogene Addictionを持つ治療の絶好のターゲットがあることは間違いない。ただし安易に Driver遺伝子や融合遺伝子をしてOncogene Addictionがあるかのような早とちりをしているヒトが多いのだ・・・・小生がOncogene Addictionという概念が胡散臭いと思っていた最大の理由はどうやらここにある。
- 臨床で治療をしてグリベックなみに効果が認められて初めて「耽溺」の栄冠は与えられるのだ。
- マウスのcondition knock in/out系の実験結果はヒト臨床系で再現されるまで評価しないこととする。きびしいな、我ながら。
- もっとも最近では最新のいろんな指標でこの 「耽溺」を予想するプロジェクトがあるらしい。一つはAMLのMLL-AF9融合遺伝子が候補のようであるが如何・・・