がんゲノム研究から学んだこと(6):Cell 誌 Eric Landerの総説
今回掲載した「日本語」は少し問題があるかもしれない。久しぶりに読んでみて(実は訳はずいぶん前に出来ていた)、これじゃわからないなあ・・と思える場所がいくつかある。確かに日本語にしにくい場所も多い。おいおい添削していこう。
多様性
がんゲノム解析はこれまでほとんどの研究が腫瘍丸ごとを対象に行なわれて来た。一方で腫瘍が細胞レベルでも分子レベルでも多様性を持っていることは何十年も前から明らかであった。ノウェルによる腫瘍のクローナル進化理論でも多様性は腫瘍本来の性質であると述べられていた。また初期研究の中にも腫瘍の多様性に真正面から取り組もうとするゲノム研究はあったのである。初発巣の中に明らかなサブクローンがあることや血液腫瘍の中にサブクローンが存在することを記録した研究もある。多様性の研究を行なうことが、今では腫瘍進化の過程への魅力的な手がかりを示し始めているといってもよい。
一例を挙げると例の「21個の乳癌研究」が明らかにしたことを言えば、腫瘍の最も共通する祖先細胞—これには全ての腫瘍細胞に共通して認められる突然変異が全てそろっているーは「分子時間」という目安で計測すると、かなり早い段階で生じていることのである。前駆細胞は典型的には原発腫瘍の少なくとも50%をしめる優勢なサブクローンを生み出す。腫瘍内の細胞多様性が明らかになるにつれ、収斂進化の実例が存在することもしられるようになった。原発巣内及び転移巣の共通する体細胞変異がわずか30-35%しか認められないとする腎癌の研究例もある。一方で同じ種類の突然変異が原発巣の明らかに異なった部位で生じることもあるのである。
この観察によりクロマチン制御(SETD2, KDM5C)やシグナル伝達(PTEN, mTOR)に関連した重要なパスウェイに連繋する重要な変異の積み重ね(ここは訳しにくい、どう訳すとよいかなあ?)が存在することが明らかになった。
腫瘍の多様性は精密な癌医療のためには極めて重要な示唆を与える。薬剤耐性や腫瘍再燃を加速させる遺伝子変異が腫瘍内のあるサブクローンに内在することはおおいにあり得る話であり、これらがのちの抗癌剤への反応性の悪さの原因となる。原因遺伝子の変異の有無で層別化することで行われる抗癌剤臨床試験では、取られた生検組織が果たして正しく腫瘍全体の性質を代表してくれているかどうかという疑問が常について回るのだ。一方で腫瘍内のあるサブクローンにドライバー遺伝子変異や薬剤抵抗遺伝子を見いだす技術の開発は、治療に対する臨床結果の予測を大いに改善するという研究もある。腫瘍内多様性の理解が深まることでより正確な臨床研究設計が可能になろう。そのような理解は治療が上手くいかない理由を解明することに繋がる。
最近可能になった一細胞ゲノムシークエンス法は、腫瘍の多様性研究を加速させている。一細胞全エクソームシークエンスはすでに血液腫瘍と固形腫瘍から報告されている。更に全ゲノムを一様に正確に増幅させる最新の技術が報告されている。一細胞シークエンス法は個人の腫瘍内腫瘍進化について興味深い知見を見いだしている(Kreso, Science,2013)。近い将来これらの技術は循環血液中の単離腫瘍細胞の詳細なゲノム構造解析を可能にするはずだ。そうすれば治療中のより詳細なモニターリングが可能となるはずだ。すなわち治療に反応しているのか、あるいは抵抗性クローンが出現しはじめているのか等々。
遺伝性
癌化を引き起こす遺伝的要素の多くは体細胞変異であるが、一方で生来の因子もいくつか知られている。罹患患者の親類縁者には癌化リスクが増加することを疫学研究は教えてくれる。ゲノム遺伝学はこれまで癌化を促進する多くの遺伝子を見出したが、しかし全貌はいまだ不明である。今回の総説では主に体細胞変異にフォーカスをおいているが、ここで遺伝的要素研究の最新データについて簡潔にふれておこうと思う。
癌化を促す遺伝子を見出す方法の一つは頻度が希で、浸透率の高いメンデル遺伝性の家族癌症候群を研究することである。このような症候群はリンケージ解析で容易にその伝搬が追跡可能な遺伝子の変異によって起こることが知られる。そしてその遺伝子変異による癌化の危険率は10倍を超えるのだ。そのような癌症候群に関連する遺伝子が100以上知られている。すなわち網膜芽細胞腫(RB1 )、乳癌(BRCA1,BRCA2)、大腸癌(APC, MUTY MUTH更に修復関連遺伝子として MLH1, MSH1,
MSH6,PMS2)などである。このような遺伝子は癌生物学にとって大事な情報を与えてくれたが、実際の臨床では5%以下の症例にしか当てはまらない。
癌化に穏やかなリスクをもたらす遺伝子を見出すためには家族単位のリンケージ解析よりはむしろ大規模関連研究のほうが有効である。大規模関連研究の方法論としては結局何を求めるかどうかによって変わってくる。すなわち1%以上の頻度が高い遺伝子(通常変異)を捜すのか、あるいは1%以下の稀な変異を求めるかによって方法論は変えなくてはいけない。通常変異はゲノムワイド連関研究(GWAS)により数百万の変異状況をコントロール/癌で調べることによって選び出される。稀な変異は様々な方法の合わせ技で見つける。これまでに150以上のがん危険ゲノム部位(アリル)が見つかってきているが、これは大規模GWASによるものであった。通常変異アリルは遺伝子制御部位でみつかることが多く、これは高々リスクを30%程度あげるにすぎない。一方稀なアリルはがん関連遺伝子(例えば乳癌におけるATM, BRIP1, CHEK2, PALB2, それにRAD51C)のコード領域に影響を与え、そのリスクを2倍から3倍に高める。通常変異アリルと稀なアリルの相対的寄与率は癌腫によって大いに変わる。重要なことは現在までに見出されたリスク因子は癌の遺伝性のごく一部しか説明しないことである。癌のリスクの遺伝的側面の全体像を把握するには更に多くの症例解析が必要なのである。
がんのなりやすさを決める通常アリル変異機構を理解するにはゲノムの包括的解析が必要とされるが、この解析はきっと重要な生物学的洞察をもたらすことであろう。示唆に富む一例を紹介しよう。染色体8q24の周辺500kbは遺伝子砂漠と呼ばれていた。大方の癌関連ゲノム領域が癌腫によって様々な場所に分散するのに対し、この染色体8q24変異は前立腺、大腸、食道、頭頸部、乳腺、膵臓等々様々な癌の高リスクに関係することがわかった。エピゲノム研究と染色体三次元構造研究およびマウス遺伝改変実験により、8q24変異はmyc遺伝子座の発現調節領域の変異そのものであることがわかったのである。同様の制御領域変異が9p21の500kbに存在することが見出されたが、これは細胞サイクル制御遺伝子であるCDKN2A/CDKN2Bの発現に関係して乳癌、メラノーマ、グリオーマ、白血病といった癌や2型糖尿病、心筋梗塞といった非癌病変にも関連するのである。いくつかの癌関連遺伝子座が同様に糖尿病に関与するが、これは癌化における代謝異常に関わるのである。最後になるが、遺伝的因子研究は人種による癌罹患に違いがあることも説明する。アフリカ系米国人の前立腺癌のハイリスクグループが、部分的には8q24変異に関連するという研究もある。
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