もう一度繰り返すと、初等教育の授業形態を根本から作り替える方法論のことである。
「授業で初めて学んだことを」→「放課後、自宅で復習し知識を定着させる」という方法が従来型の授業であった。
「反転授業」ではまず「授業の前日ネットで授業を見てくる」ことで予習をしておく。翌日の授業では「前日のネット授業で浮かんだ新鮮な疑問や自分の意見を述べ、教師に教えてもらうこと」や「前日の授業を元に、更に進んだ内容について授業でディスカッションする」という形式をとる。
なにが良いのかと思われるかもしれない。
でもこの授業だと、予習に使う授業を最高レベルのものにすることが可能なのだ。Youtubeが想定されているが、この授業を日本の最高のスタッフが構成し、最高の先生に「演じて」もらうことが可能だ。映画や演劇やテレビドラマ作成のごとく「がんの遺伝学」について、今の日本で最高の授業を作ることはおそらく可能だ。この授業を元に、現場の先生方は翌日のリアルな授業を行えば良いのである。これは面白いと思うよ、先生にとっても。
Youtube授業はいくらでも、いくつでも良いものが出来ていくだろう。なにしろ全国から腕自慢が毎年のように選りすぐりの授業を持ち寄るであろうから。面白いと思うな。
翌日のリアルな授業は、普通の先生が、身の丈に合った授業をやれば良いのである。難しい質問にはその場で答えなくとも、ブログかツイッターで直ぐに全国から「回答」が届くであろう。
反転授業は初等教育だけがターゲットであろうか? 実はそんなことはないのである。この20日くらいいろいろ調べてみたが、この授業形態は昨年くらいからアメリカの大学では次々に広がっているようだ。MOOCs(ムークス)Massive Open Online Coursesという。原則無料である。
ハーバードにはEdxというサイトがあり、スタンフォードにはCoursera(コーセラ)がある。2013年9月から12回のコースでEric LanderのEdx反転授業「Introduction to Biology - The Secret of Life」が開講されていた。これはハーバードの学生とリアルタイムに授業を共有できる。世界中から35000人がこの授業に登録したという。
ボクがシコシコとEric Landerの去年の春の総説を訳していた頃、丁度その同じ時期、彼のFllipped lectureが無料で体験できたのに気が付いていなかったことが残念である。
リアルタイムだと、参加学生には「質問が飛んでくる」のだそうだし、当然assingment 宿題も出されるのである。on line で課題をこなし、ミニテストに答えなくてはいけない。
ボクはエリック・ランダーにも興味があるが、それ以上に「反転授業」やMOOCsやに興味があるのである。内容は馴染みがあるエリックの授業であるから、実際に授業を受ければ、MOOCsが実際にはどのように流れていくのか実感できたであろうと思うのだ。返す返すも残念である。
悔しいので、ボクはハーバードのEdxに登録参加したよ。今年はエリックの講義は今のところ予定されていないが、なんか手頃な授業に参加したいと思っている。
ちなみに35000人が参加したエリック・ランダーの授業であるが、コースを完遂したのは12%の学生であったという。実はこの数字は、これまでの最高値なのだそうだ。低いと思いますかな?冗談ではありませんな。凄いことだと思う。ハーバードのエリック・ランダーの2013年度のバイオロジー・コースを4200人もの多数の人間が終了したのだから、これくらい教育効果の(コスト・パフォーマンス)の良い大学授業は空前絶後ではないだろうか?
このあたりの数字の根拠は次のCellに載っているので興味のある人は読まれると良い。とても面白いたった3ページの読み物だ。
Cell, Volume 155, Issue 7, 1443-1445, 19 December 2013
Education Evolving: Teaching Biology Online
Rachel Bernstein
San Francisco, CA, USAちなみに日本にもムークスはあります。というか日本の方が先輩なのだよねこの世界では。「放送大学」というシステムがある。ボクはかつて「放送大学」に(ほんの少しだが)接点があったが、これはなかなか優れもののシステムであり、授業もテキストもとても質の高いものだと思っている。かつてイスラムの井筒俊彦先生だったか立花隆だったかの本に「たとえば今の日本で中世イスラム史を勉強しようと思ったらどうすれば良いですか?」と聞かれて「放送大学のテキストと放送授業で勉強することですね。放送大学の過去のテキストにはかなりの優れものがありますから」と答えられていたのがとても印象的だった。ただ、この「放送大学」というのは極めて方法論が前世紀的である。テレビと年に何回かのリアルな教室授業であるから。だから旧来の「放送大学」はMOOCs(ムークス)とはいえない。
JMOOCs(ムークス)というのはあるのである。理事長「放送大学」の方であるが、ホームページを見るとまだまだ走り出したばかりのようである。2014年開講のムークスがいくつか用意されているが、生物学・医学系はまだひとつもない。
一方アメリカのハーバードのEdXには京都大学が、スタンフォードのCoursera(コーセラ)には東京大学が参加を表明しているらしいが、今年の授業予定表には両大学の講義予定はまだ載っていない。北京大学などはいくつも予定を載せているのに。
これらアメリカの有名大学のMOOCsに授業を載せることが出来るのは各国ベスト5大学だけに限られている。英語の授業をどうどうと載せるだけの器量が東大や京大にあるのだろうか?しかしこんなところにも存在感を見せておいて欲しいものだ。日本独自のユニークな講義内容をどんどん発信してほしい。あのハーバードの日本史の女性教授のようにね。
ただ、日本人には日本語のMOOCsが必要だ。MOOCsの新規性となにより大衆性にいち早く気が付いた大学が次の時代のヘゲモニーを勝ち取るような気がするがなあ。
「がんの遺伝学」でMOOCsを作ってみたいなあ。
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以下、ラトビアからコメントを頂きました。
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以下、ラトビアからコメントを頂きました。
- いつもためになるトピックや解説をありがとうございます。私は今ラトビアという国で癌関係の研究に従事しています。本当の研究はできませんが、診断や投薬の助けになるべくジェノタイピング等をやってます。
ラトビアなんぞに居ますと、米国のMOOCsは本当に助かります。周りを見回して、統計のできそうな人がいないので、CourseraとedXで統計関係のコースを幾つかとったら今や統計処理で引っ張りだこです。ものすごく役立ちます。 - Mikija さん
ありがとうございます。MOOCsをご経験の方の投稿とはありがたいです。本朝は朝日新聞はMOOCsを大々的に紹介していましたが、これからどうなるのか注目です。
ラトビアは良いところのようですね。私はルイスサッカーという作家の「Holes」という児童書(10年くらい前に読みました)の主人公の家族の出身地ということで、かなり印象深く覚えています。リガですね。バルト三国は上からあいうえお順だと、これもクイズ的Tips。
これからもジェノタイプ頑張ってください(乳癌かしら?)
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2 件のコメント:
いつもためになるトピックや解説をありがとうございます。私は今ラトビアという国で癌関係の研究に従事しています。本当の研究はできませんが、診断や投薬の助けになるべくジェノタイピング等をやってます。
ラトビアなんぞに居ますと、米国のMOOCsは本当に助かります。周りを見回して、統計のできそうな人がいないので、CourseraとedXで統計関係のコースを幾つかとったら今や統計処理で引っ張りだこです。ものすごく役立ちます。
Mikija さん
ありがとうございます。MOOCsをご経験の方の投稿とはありがたいです。本朝は朝日新聞はMOOCsを大々的に紹介していましたが、これからどうなるのか注目です。
ラトビアは良いところのようですね。私はルイスサッカーという作家の「Holes」という児童書(10年くらい前に読みました)の主人公の家族の出身地ということで、かなり印象深く覚えています。リガですね。バルト三国は上からあいうえお順だと、これもクイズ的Tips。
これからもジェノタイプ頑張ってください(乳癌かしら?)
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