2014年1月29日水曜日

低pH刺激だけでiPS様の幹細胞を作成;理研神戸

pH5.7の酸性溶液に25分つけるだけで多能性幹細胞を得る方法が開発された。

神戸理研小保方 晴子さん(Vacantiの名前もあるものの)から画期的発表である。(今気が付いたが、小保方博士'nature'に同時に二報採用されているのでした。)



「刺激惹起(じゃっき)性多能性獲得 (STAP) 幹細胞」 

独立行政法人理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター センター長
戦略プログラム 細胞リプログラミング研究ユニット 研究ユニットリーダー
小保方 晴子 (おぼかた はるこ)


http://www.asahi.com/articles/ASG1Y41F4G1YPLBJ004.html


Nature 505, 641–647 (30 January 2014) 

Received 10 March 2013
Accepted 20 December 2013
Published online 29 January 2014

Stimulus-triggered fate conversion of somatic cells into pluripotency 
 Nature 505, 641–647 (30 January 2014)

Haruko Obokata, Teruhiko Wakayama, Yoshiki Sasai, Koji Kojima, Martin P. Vacanti, Hitoshi Niwa, Masayuki Yamato and Charles A. Vacanti

Abstract

Here we report a unique cellular reprogramming phenomenon, called stimulus-triggered acquisition of pluripotency (STAP), which requires neither nuclear transfer nor the introduction of transcription factors. In STAP, strong external stimuli such as a transient low-pH stressor reprogrammed mammalian somatic cells, resulting in the generation of pluripotent cells. Through real-time imaging of STAP cells derived from purified lymphocytes, as well as gene rearrangement analysis, we found that committed somatic cells give rise to STAP cells by reprogramming rather than selection. STAP cells showed a substantial decrease in DNA methylation in the regulatory regions of pluripotency marker genes. Blastocyst injection showed that STAP cells efficiently contribute to chimaeric embryos and to offspring via germline transmission. We also demonstrate the derivation of robustly expandable pluripotent cell lines from STAP cells. Thus, our findings indicate that epigenetic fate determination of mammalian cells can be markedly converted in a context-dependent manner by strong environmental cues.









刺激として低pHだけなのかというと発展データにこう↓(溶連菌毒素)ある。これからなんだかすごいことになりそうだな。面白い。

A remaining question is whether cellular reprogramming is initiated specifically by the low-pH treatment or also by some other types of sublethal stress such as physical damage, plasma membrane perforation, osmotic pressure shock, growth-factor deprivation, heat shock or high Ca2+ exposure. At least some of these stressors, particularly physical damage by rigorous trituration and membrane perforation by streptolysin O, induced the generation of Oct4-GFP+ cells from CD45+ cells (Extended Data Fig. 9a; see Methods).


次にもう一報

Nature 505, 676–680 (30 January 2014) 

Received 10 March 2013 Accepted 20 December 2013 Published online 29 January 2014

Bidirectional developmental potential in reprogrammed cells with acquired pluripotency 

 Haruko Obokata, Yoshiki Sasai, Hitoshi Niwa, Mitsutaka Kadota, Munazah Andrabi, Nozomu Takata, Mikiko Tokoro, Yukari Terashita, Shigenobu Yonemura, Charles A. Vacanti and Teruhiko Wakayama

We recently discovered an unexpected phenomenon of somatic cell reprogramming into pluripotent cells by exposure to sublethal stimuli, which we call stimulus-triggered acquisition of pluripotency (STAP)1. This reprogramming does not require nuclear transfer2, 3 or genetic manipulation4. Here we report that reprogrammed STAP cells, unlike embryonic stem (ES) cells, can contribute to both embryonic and placental tissues, as seen in a blastocyst injection assay. Mouse STAP cells lose the ability to contribute to the placenta as well as trophoblast marker expression on converting into ES-like stem cells by treatment with adrenocorticotropic hormone (ACTH) and leukaemia inhibitory factor (LIF). In contrast, when cultured with Fgf4, STAP cells give rise to proliferative stem cells with enhanced trophoblastic characteristics. Notably, unlike conventional trophoblast stem cells, the Fgf4-induced stem cells from STAP cells contribute to both embryonic and placental tissues in vivo and transform into ES-like cells when cultured with LIF-containing medium. Taken together, the developmental potential of STAP cells, shown by chimaera formation and in vitro cell conversion, indicates that they represent a unique state of pluripotency.

 以下「理研」のホームページより転載。

図表が豊富なオリジナルHPを読んで欲しいが、たまらず転載してみました。(ご寛恕を)
  • 研究手法と成果

  • 小保方研究ユニットリーダーは、まずマウスのリンパ球を用いて、細胞外環境を変えることによる細胞の初期化への影響を解析しました。リンパ球にさまざまな化学物質の刺激や物理的な刺激を加えて、多能性細胞に特異的な遺伝子であるOct4[9]の発現が誘導されるかを詳細に検討しました。なお、解析の効率を上げるため、Oct4遺伝子の発現がオンになると緑色蛍光タンパク質「GFP」が発現して蛍光を発するように遺伝子操作したマウス(Oct4::GFPマウス)のリンパ球を使用しました。
  • こうした検討過程で、小保方研究ユニットリーダーは酸性の溶液で細胞を刺激することが有効なことを発見しました。リンパ球を30分間ほど酸性 (pH5.7)の溶液に入れて培養してから、多能性細胞の維持・増殖に必要な増殖因子であるLIFを含む培養液で培養したところ、7日目に多数のOct4陽性の細胞が出現しました(図3)。酸性溶液処理[10]で多くの細胞が死滅し、7日目に生き残っていた細胞は当初の約5分の1に減りましたが、生存細胞のうち、3分の1から2分の1がOct4陽性でした。ES細胞(胚性幹細胞)[11]やiPS細胞などはサイズの小さい細胞ですが、酸性溶液処理により生み出されたOct4陽性細胞はこれらの細胞よりさらに小さく、数十個が集合して凝集塊を作る性質を持っていました。次にOct4陽性細胞が、分化したリンパ球が初期化されたことで生じたのか、それともサンプルに含まれていた極めて未分化な細胞が酸処理によって選択されたのかについて、詳細な検討を行いました。まず、Oct4陽性細胞の形成過程をライブイメージング法[12]で解析したところ、酸性溶液処理を受けたリンパ球は2日後からOct4を発現し始め(図3)、反対に当初発現していたリンパ球の分化マーカー(CD45)が発現しなくなりました。また、このときリンパ球は縮んで、直径5ミクロン前後の特徴的な小型の細胞に変化しました。(YouTube:リンパ球初期化3日以内
  • 次に、リンパ球の特性を生かして、遺伝子解析によりOct4陽性細胞を生み出した「元の細胞」を検証しました。リンパ球のうちT細胞は、いったん分化するとT細胞受容体遺伝子に特徴的な組み替えが起こります。これを検出することで、細胞がT細胞に分化したことがあるかどうかが分かります。この解析から、Oct4陽性細胞は、分化したT細胞から酸性溶液処理により生み出されたことが判明しました。
  • これらのことから、酸性溶液処理により出現したOct4陽性細胞は、一度T細胞に分化した細胞が「初期化」された結果生じたものであることが分かりました。これらのOct4陽性細胞は、Oct4以外にも多能性細胞に特有の多くの遺伝子マーカー(Sox2SSEA1Nanogなど)を発現していました(図3)。また、DNAのメチル化状態もリンパ球型ではなく多能性細胞に特有の型に変化していることが確認されました。
  • 産生されたOct4陽性細胞は、多様な体細胞へ分化する能力も持っていました。分化培養やマウス生体への皮下移植により、外胚葉(神経細胞など)、中胚葉(筋肉細胞など)、内胚葉(腸管上皮など)の組織に分化することを確認しました(図4)。さらに、マウス胚盤胞(着床前胚)に注入してマウスの仮親の子宮に戻すと、全身に注入細胞が寄与したキメラマウス[13](YouTube:100%キメラマウス_STAP細胞)を作成でき、そのマウスからはOct4陽性細胞由来の遺伝子を持つ次世代の子どもが生まれました(図5)。これらの結果は、酸性溶液処理によってリンパ球から産生されたOct4陽 性細胞が、生殖細胞を含む体のすべての細胞に分化する能力を持っていることを明確に示しています。小保方研究ユニットリーダーは、このような細胞外刺激に よる体細胞からの多能性細胞への初期化現象を刺激惹起性多能性獲得(Stimulus-Triggered Acquisition of Pluripotency; STAPと略する)、生じた多能性細胞をSTAP細胞と名付けました。
  • 続いて、この現象がリンパ球という特別な細胞だけで起きるのか、あるいは幅広い種類の細胞でも起きるのかについて検討しました。脳、皮膚、骨格筋、脂肪組 織、骨髄、肺、肝臓、心筋などの組織の細胞をリンパ球と同様に酸性溶液で処理したところ、程度の差はあれ、いずれの組織の細胞からもOct4陽性のSTAP細胞が産生されることが分かりました。
  • また、酸性溶液処理以外の強い刺激でもSTAPによる初期化が起こるかについても検討しました。その結果、細胞に強いせん断力を加える物理的な刺激 (細いガラス管の中に細胞を多数回通すなど)や細胞膜に穴をあけるストレプトリシンOという細胞毒素で処理する化学的な刺激など、強くしすぎると細胞を死 滅させてしまうような刺激を少しだけ弱めて細胞に加えることで、STAPによる初期化を引き起こすことができることが分かりました。
  •  STAP細胞は胚盤胞に注入することで効率よくキメラマウスの体細胞へと分化します。この研究の過程で、STAP細胞はマウスの胎児の組織になるだけではなく、その胎児を保護し栄養を供給する胎盤や卵黄膜などの胚外組織にも分化していることを発見しました(図6)。STAP細胞をFGF4という増殖因子を加えて数日間培養することで、胎盤への分化能がさらに強くなることも発見しました。一方、ES細胞やiPS細胞などの多能性幹細胞[14]は、 胚盤胞に注入してもキメラマウスの組織には分化しても、胎盤などの胚外組織にはほとんど分化しないことが知られています。このことは、STAP細胞が体細 胞から初期化される際に、単にES細胞のような多能性細胞(胎児組織の形成能だけを有する)に脱分化するだけではなく、胎盤も形成できるさらに未分化な細 胞になったことを示唆します。
  • STAP細胞はこのように細胞外からの刺激だけで初期化された未分化細胞で、幅広い細胞への分化能を有しています。一方で、ES細胞やiPS細胞などの多 能性幹細胞とは異なり、試験管の中では、細胞分裂をして増殖することがほとんど起きない細胞で、大量に調製することが難しい面があります。小保方研究ユ ニットリーダーらは、理研が開発した副腎皮質刺激ホルモンを含む多能性細胞用の特殊な培養液[15]を用いることでSTAP細胞の増殖を促し、STAP細胞からES細胞と同様の高い増殖性(自己複製能[16])を有する細胞株を得る方法も確立しました(図7)。この細胞株は、増殖能以外の点でもES細胞に近い性質を有しており、キメラマウスの形成能などの多能性を示す一方、胎盤組織への分化能は失っていることが分かりました。
  • 今後の期待

  • 今回の研究で、細胞外からの刺激だけで体細胞を未分化な細胞へと初期化させるSTAPを発見しました(図8)。 これは、これまでの細胞分化や動物発生に関する常識を覆すものです。STAP現象の発見は、細胞の分化制御に関する全く新しい原理の存在を明らかにするも のであり、幅広い生物学・医学において、細胞分化の概念を大きく変革させることが考えられます。分化した体細胞は、これまで、運命付けされた分化状態が固 定され、初期化することは自然には起き得ないと考えられてきました。しかし、STAPの発見は、体細胞の中に「分化した動物の体細胞にも、運命付けされた 分化状態の記憶を消去して多能性や胎盤形成能を有する未分化状態に回帰させるメカニズムが存在すること」、また「外部刺激による強い細胞ストレス下でその スイッチが入ること」を明らかにし、細胞の初期化に関する新しい概念を生み出しました。
  • また、今回の研究成果は、多様な幹細胞技術の開発に繋がることが期待されます。それは単に遺伝子導入なしに多能性幹細胞が作成できるということに留まりま せん。STAPは全く新しい原理に基づくものであり、例えば、iPS細胞の樹立とは違い、STAPによる初期化は非常に迅速に起こります。iPS細胞では 多能性細胞のコロニーの形成に2~3週間を要しますが、STAPの場合、2日以内にOct4が発現し、3日目には複数の多能性マーカーが発現していることが確認されています。また、効率も非常に高く、生存細胞の3分の1~2分の1程度がSTAP細胞に変化しています。
  • 一方で、こうした効率の高さは、STAP細胞技術の一面を表しているにすぎません。共同研究グループは、STAPという新原理のさらなる解明を通し て、これまでに存在しなかった画期的な細胞の操作技術の開発を目指します。それは、「細胞の分化状態の記憶を自在に消去したり、書き換えたりする」ことを 可能にする次世代の細胞操作技術であり、再生医学以外にも老化やがん、免疫などの幅広い研究に画期的な方法論を提供します(図8)。 さらに、今回の発見で明らかになった体細胞自身の持つ内在的な初期化メカニズムの存在は、試験管内のみならず、生体内でも細胞の若返りや分化の初期化など の転換ができる可能性をも示唆します。理研の研究グループでは、STAP細胞技術のヒト細胞への適用を検討するとともに、STAPによる初期化メカニズム の原理解明を目指し、強力に研究を推進していきます。

http://www.ipscell.com/tag/charles-vacanti/





Paul Knoepflerによるコメントはこちら





2014年1月25日土曜日

そろそろクレーム止めませんか?

日本が急速におかしな国になっていっている。奇妙なクレームで中止・萎縮が大流行であるが、これはいけない。
そろそろクレーム止めませんか?






これは本日の某ポータルサイトのアクセス・ランキングであるが、どうなっているのだ?これは本当かい?
スポンサーも毅然として欲しい。中途半端で理不尽なクレームにはどうどうと「我関知せず」を貫いて欲しい。後援を続けて欲しい。どうみても理不尽なクレームだと思うよ。

それと最近ネットのニュースでの中韓誹謗記事の多さには辟易しますな。そんなに一生懸命見つけてこなくても良いだろうに・・・と思う。心ある日本人なら、皆辟易しているはずである。

ニュースを作る人たちよ、あなた方は「なにを目指しているのかしら?」旗幟をハッキリさせてちょうだいな。 日本を奇妙な国にしないで欲しい。

2014年1月21日火曜日

20年後の世界:宮田隆は進化したのか?

本を改訂するというのは良くあることだが、20年たってというのは珍しいのではないだろうか? 

宮田 隆さんの本【分子進化学への招待―DNAに秘められた生物の歴史 (ブルーバックス)(1994)】は名著であり、この本で「中立進化」や偽遺伝子の変異率について学んだ方は多いのではないだろうか? 昔の進化学はアミノ酸の変異進化であったが、シークエンス技術の進歩と共に比較ゲノム学が一気に花開いた。「発現遺伝子」と「非発現偽遺伝子」の抱え込む変異率の比較がようやく研究可能になって見えてきたことは新鮮だった。木村資生の「中立進化論」が(ずべててではないにせよ)データで実証されたことは極めて面白かったのだ。 その後木村博士の弟子の太田朋子さんが[分子進化のほぼ中立説―偶然と淘汰の進化モデル2009]を出している。


さて、その宮田さんが稿をあらためるいう。これは読まなくっちゃ、発売されてほやほや。 楽しみです。 







がんゲノム研究から学んだこと(8)最終回:Cell 誌 Eric Landerの総説

Eric Landerの総説とは昨年(2013年)3月号のCellに掲載されたランダーによる「がんゲノム学総説」のことである。ランダー自身が渦中にあって、その先頭に立って邁進してきたポスト・ヒトゲノム計画後の大量並行シークエンスデータを元にした、この10年の総括である。


Cell, Volume 153, Issue 1, 17-37, 28 March 2013

Lessons from the Cancer Genome 
Levi A. Garraway1,2,4 and Eric S. Lander3,4,5,* 

1 Department of Medical Oncology and Center for Cancer Genome Discovery, Dana-Farber Cancer Institute, Boston, MA 02215, USA
2 Department of Medicine, Brigham and Women’s Hospital
3 Department of Systems Biology Harvard Medical School, Boston, MA 02115, USA 4The Broad Institute of Harvard and MIT, Cambridge, MA 02142, USA 5Department of Biology, Massachusetts Institute of Technology, Cambridge, MA 02139, USA


読む価値の極めて高い総説だと思ったので、敷居の高い部分はあったものの、訳を試みた次第である。本来は昨年の内に上梓すべきものであったが、今回最終回で8回にわたる紹介を終える。

読み終えて・・・・・・・・


わかったことは限りなくある。極めて見通しは良くなった。がんを論ずるにあったて、少なくとも遺伝子ゲノム変異に関してはプラットホームが出来ありつつあるといってよいだろう。

最終回でランダーが述べているように、がんに対する治療薬の臨床試験では、今後患者の遺伝子ゲノム情報抜きの治験はあり得ない時代になっていくことだろう。

あるいは胃癌、大腸癌・・・別の、すなわち臓器別治験も変容していく可能性がある。 遺伝子ゲノム変異が共通しているグループとしてなら、同時に治験の対象になる(胃癌のサブグループと大腸癌のサブグループと肺癌のサブグループと卵巣癌のサブグループが同時に同じ治験対象となる)そんな時代になっていくことが示唆される。

世界的な治験センターが1カ所になる可能性も示唆される。これがハッピーでないひともまた多かろうが、時代はそれを許さない。

ビッグデータのなかで、一番利用しがいのあるのが、医学データであり、その中でも 遺伝子ゲノムデータ、あるいはOmicsデータ、もっと言えばiPOP (integrated personal omics profiles)データであろう。

お金になるかどうかは、小生に取ってはどうでも良いが、「看板あるいはかけ声」としては、「お金」というものは、世を動かすにはとても良いdriving forceとなる。「このビッグデータはお金になりますよ」と皆さん宣伝して欲しいものである。それで研究が一挙に進めば素晴らしい。




次世代がんゲノム学

系統的ゲノムワイド研究を補完するものとしての「個別的アプローチ」の持つ価値(これはダルベッコが予想していたものである)はがんゲノム研究から得られた最初の成果の一つであった。ゲノム研究の初期成果はすでに基礎研究と臨床研究およびその架け橋的研究の最前線を拡大させている。とはいえ、現状の研究は包括的ながんゲノム研究がもたらした豊穣な成果のほんの表面をかじっているにすぎない。がんゲノム学はがん原発巣における遺伝子変異を拾い上げ記述することに精力を向けてきた。今後数年でこの研究領域は守備範囲を大いに拡大し、生物学的および臨床的な疑問への系統的な情報に答えてくれるようになるだろう。
以下次世代のがんゲノム学にとって重要な4つの構成要素を述べてみたい。

原発巣における変異遺伝子アトラスを完成させること

あらゆる癌腫において原発巣における変異遺伝子リストを完成させることは愚直ではあるがしかしやはり極めて重要な仕事である。がん関連遺伝子のリストは極めて長いしっぽを持ち、しかも癌腫によって同じ遺伝子であってもその変異頻度がことなるという条件を考えると、そのような研究には数千のがんー正常ペアサンプルが必要になる。

 なぜそこまで完全性にこだわるのか?頻度が低いドライバーであっても数がまとまれば癌化に重要な働きをすると考えられるし、それらはとてつもなく面白い機能を持っている可能性があると科学的には考えられる。一方医師というものは、自分の患者の全てのドライバー変異を知ったうえで最適な治療を考えたいと望むものなのだ。幸いなことにシークエンスのコストは低減化しているし少量のホルマリン・パラフィン固定病理サンプルからでも解析可能な技術力は向上してきているので、以上述べた希望が叶えられる環境になってきている。解析はエキソームから全ゲノム(転座も補足可能だ)、トランスクリプトーム、エピゲノム(少なくともメチロームや一部のクロマチン修飾)に広げなくてはいけない。局所的ではない染色体コピー数変化、エピゲノム修飾、非遺伝子領域における転座をつかまえる技術と解析力が今後必要とされる。また生まれつきのゲノム変化を完全に解析し、ここから発がんリスクにつながるゲノム情報を得ることも重要である。

その遺伝子変異地図を転移、再発、播種等々の腫瘍アトラスに拡張すること

さて第二の要素は作成されたそのアトラスを原発巣からそのがんの自然史に沿った進展の過程を包含するアトラスに展開することで、モデルシステムを構築することである。自然史に沿った変異アトラスとは、すなわち前がん状態にはじまり、様々な遠隔組織に対する転移巣解析にいたる変異の歴史をたどるアトラスのことであり、また同時に治療に対する様々な反応—すなわち劇的な効果、元々の抵抗性、あるいは獲得された抵抗性それぞれを説明するゲノム解析のことである。理想的には腫瘍の臨床治験ではすべからく上記の解析が行われるべきものと考える。ゲノム解析は動物モデルにも応用すべきと考えられ、そうすることで動物実験はヒトのがんと密接に連係づけが出来るようになるのである。遺伝子改変動物モデルに加えて大動物(特にイヌ)における自然発癌を詳細に検討することで薬剤試験に有効な治験をもたらすことになると考えられる。

パスウェイ変異によって細胞が傷つく過程を明らかにするエンサイクロペディアの作成

変異カタログができるとがんゲノムの詳細な構造が明らかになるが、しかしカタログだけでは充分とはいえない。
我々が必要とするのはパスウェイ変異と細胞が傷つくことーこの両者ががんゲノムの変異とどうように相関するかを説明する機能的な百科事典とでも呼べるものを構築することなのだ。ゲノム学的アプローチは系統的な機能解析と構造的解析の両者を推進していくことだろう。機能的な百科事典を構築することで(1)どのようながんゲノムのタイプであっても扱えるモデルを作ることが可能になる(2)作ったモデルをゲノム変異、基本的なパスウェイ、治療上の脆弱性の面から説明できるようになるであろう。すでに進行中のプロジェクトでは膨大ながん細胞株を収集し、細胞の状態をRNA、蛋白質、蛋白修飾状態で特徴づけ、抗癌剤への感受性を決定し、RNAiですべての遺伝子を抑制し、微小環境との相互作用を観測する。このような莫大な種類の細胞株を用いた解析により、パスウェイと細胞の脆弱性を特定の遺伝子座と関連づけることが可能となりがん生物学への計り知れない知見、臨床治験に参加する患者選択の有用なマーカーさらには有効ながん治療薬へのヒントをもたらすのである。
現状のがん細胞株とはがんの細胞あるいはがんゲノムとしてはかなりのバイアスがかかったものである可能性があるのは、このような研究のもつ一つの限界である。このような限界を超えるものとして最近では新しい方法(Rhoキナーゼ抑制薬で処理したフィーダー細胞を培養ディッシュに敷き詰めること、あるいは「オルガノイド」培養法)が応用されるようになりがんモデルのレパートリーがかなりの程度増加しそうである。患者由来のヌードマウス移植腫瘍もまた新しい治療法の前臨床研究には欠かせない。


癌ゲノム情報を広くあまねく広げる努力を

さて最後の要素であるが、基礎中の基礎である一般の人々への情報伝達である。広く情報を共有することのが極めて重要なのである。
がんゲノム情報は基礎研究のレベルから今や世界中の数百万人の患者を対象とした解析手段になることで、その情報量は数年の間に指数関数的増加をきたしている。怒濤のごとく増加するゲノム情報と臨床データを共有し広く解析することが可能であれば、がんの理解と治療は加速度的に速まる。ゲノム情報はがん遺伝子の発見ばかりか治療反応性に関係する腫瘍の遺伝子タイプを見出すこと(新しい薬剤が劇的に効く患者のいることや別の組み合わせだとそこそこにしか効果がないことなどの知見を見出すスピード)を加速する。事実上、世界中のがん治療が一つの研究室と連結し、たゆまぬ進歩を遂げているかのごとくである。これが現実性を獲得るためには研究者、病院、患者団体によるバランスの取れた協力が欠かせないが、そうすることで二つのゴールをめざす。(1)知見を総覧することが可能なコンピューターシステムの創成と(2)知見を共有しようという「文化」を人々の間に広げていくことである。現状の米国における医療レコードがそうであるように、ゲノム情報が検索不能の場所に隠匿されてしまわれることや解釈不能のフォーマットで保存されてしまうことも容易に想像出来る。
そのような結果にならないために、データとデータ解析には共通であり、しかも相互操作可能な標準フォーマットが適応されるようにしておくこと、クラウド標準でデータの管理は厳重であること、患者のデータ遺漏がないような厳重なシステムを保証しなければならない。
技術的基盤だけでは充分とはいえない。臨床医、病院、そして保険ネットワークもまた、臨床データの収集と分配に力を注がなければならない。製薬会社等々も終了した治験から得られるデータの公開に努めなければならない。最後に患者支援団体は丁度AIDSで経験されたような文化を大きく変える、すなわち革命の起動力を喚起しなくてはいけない。自分のデータを公開するかどうかの決断は患者自身にあるとしても、(適切なルールがあり患者プライバシーの保護が守られたとしても)患者が自分の情報を将来の世代のがんの治療のために積極的に公開してくれるかどうかにには疑問がある。がんに対する世界的な戦いのために彼ら自身の情報が役に立つこととそのような権利を彼ら自身が持つことを我々は患者に伝えていかなければならないのである。


結論

ゲノム遺伝学は癌研究に対する強力なツールになり、重要で驚くべき成果を生み出すとともに、更に細胞機能に基板を置いた系統的な分類を可能にしつつある。
癌ゲノム学がまさに産声をあげ始めているが、現在は原発癌における変異カタログ作成に集中しているところである。目的をかなえるために、この領域の研究者はより深いがんゲノムの構造的特徴を明らかにしなくてはいけない。癌細胞の機能的特徴を補完しなくてはいけない。そしてそれらの情報を世界中に敷衍させる必要がある。
究極的に癌ゲノム学は敵の全てを把握するべく邁進中である。癌ゲノム学だけで勝利の保証が与えられているわけではないが、それが攻撃の重要な要であることは間違いがないところであろう。

2014年1月17日金曜日

反転授業と米国のMOOCsにボクは魅せられている

元旦の朝日新聞は燃えていたが、その後トーンは通常に戻った。しかしたきつけられたボクの興味はますます深まるばかりである。例の「反転授業」(flipped classroom)のお話しである。

もう一度繰り返すと、初等教育の授業形態を根本から作り替える方法論のことである。

「授業で初めて学んだことを」→「放課後、自宅で復習し知識を定着させる」という方法が従来型の授業であった。
「反転授業」ではまず「授業の前日ネットで授業を見てくる」ことで予習をしておく。翌日の授業では「前日のネット授業で浮かんだ新鮮な疑問や自分の意見を述べ、教師に教えてもらうこと」や「前日の授業を元に、更に進んだ内容について授業でディスカッションする」という形式をとる。

なにが良いのかと思われるかもしれない。

でもこの授業だと、予習に使う授業を最高レベルのものにすることが可能なのだ。Youtubeが想定されているが、この授業を日本の最高のスタッフが構成し、最高の先生に「演じて」もらうことが可能だ。映画や演劇やテレビドラマ作成のごとく「がんの遺伝学」について、今の日本で最高の授業を作ることはおそらく可能だ。この授業を元に、現場の先生方は翌日のリアルな授業を行えば良いのである。これは面白いと思うよ、先生にとっても。

Youtube授業はいくらでも、いくつでも良いものが出来ていくだろう。なにしろ全国から腕自慢が毎年のように選りすぐりの授業を持ち寄るであろうから。面白いと思うな。

翌日のリアルな授業は、普通の先生が、身の丈に合った授業をやれば良いのである。難しい質問にはその場で答えなくとも、ブログかツイッターで直ぐに全国から「回答」が届くであろう。

反転授業は初等教育だけがターゲットであろうか? 実はそんなことはないのである。この20日くらいいろいろ調べてみたが、この授業形態は昨年くらいからアメリカの大学では次々に広がっているようだ。MOOCs(ムークス)Massive Open Online Coursesという。原則無料である。

ハーバードにはEdxというサイトがあり、スタンフォードにはCoursera(コーセラ)がある。2013年9月から12回のコースでEric LanderのEdx反転授業「Introduction to Biology - The Secret of Life」が開講されていた。これはハーバードの学生とリアルタイムに授業を共有できる。世界中から35000人がこの授業に登録したという。





ボクがシコシコとEric Landerの去年の春の総説を訳していた頃、丁度その同じ時期、彼のFllipped lectureが無料で体験できたのに気が付いていなかったことが残念である。

リアルタイムだと、参加学生には「質問が飛んでくる」のだそうだし、当然assingment 宿題も出されるのである。on line で課題をこなし、ミニテストに答えなくてはいけない。

ボクはエリック・ランダーにも興味があるが、それ以上に「反転授業」やMOOCsやに興味があるのである。内容は馴染みがあるエリックの授業であるから、実際に授業を受ければ、MOOCsが実際にはどのように流れていくのか実感できたであろうと思うのだ。返す返すも残念である。

悔しいので、ボクはハーバードのEdxに登録参加したよ。今年はエリックの講義は今のところ予定されていないが、なんか手頃な授業に参加したいと思っている。


ちなみに35000人が参加したエリック・ランダーの授業であるが、コースを完遂したのは12%の学生であったという。実はこの数字は、これまでの最高値なのだそうだ。低いと思いますかな?冗談ではありませんな。凄いことだと思う。ハーバードのエリック・ランダーの2013年度のバイオロジー・コースを4200人もの多数の人間が終了したのだから、これくらい教育効果の(コスト・パフォーマンス)の良い大学授業は空前絶後ではないだろうか?

このあたりの数字の根拠は次のCellに載っているので興味のある人は読まれると良い。とても面白いたった3ページの読み物だ。

Cell, Volume 155, Issue 7, 1443-1445, 19 December 2013

Education Evolving: Teaching Biology Online

Rachel Bernstein

San Francisco, CA, USA

ちなみに日本にもムークスはあります。というか日本の方が先輩なのだよねこの世界では。「放送大学」というシステムがある。ボクはかつて「放送大学」に(ほんの少しだが)接点があったが、これはなかなか優れもののシステムであり、授業もテキストもとても質の高いものだと思っている。かつてイスラムの井筒俊彦先生だったか立花隆だったかの本に「たとえば今の日本で中世イスラム史を勉強しようと思ったらどうすれば良いですか?」と聞かれて「放送大学のテキストと放送授業で勉強することですね。放送大学の過去のテキストにはかなりの優れものがありますから」と答えられていたのがとても印象的だった。ただ、この「放送大学」というのは極めて方法論が前世紀的である。テレビと年に何回かのリアルな教室授業であるから。だから旧来の「放送大学」はMOOCs(ムークス)とはいえない。

JMOOCs(ムークス)というのはあるのである。理事長「放送大学」の方であるが、ホームページを見るとまだまだ走り出したばかりのようである。2014年開講のムークスがいくつか用意されているが、生物学・医学系はまだひとつもない。

一方アメリカのハーバードのEdXには京都大学が、スタンフォードのCoursera(コーセラ)には東京大学が参加を表明しているらしいが、今年の授業予定表には両大学の講義予定はまだ載っていない。北京大学などはいくつも予定を載せているのに。

これらアメリカの有名大学のMOOCsに授業を載せることが出来るのは各国ベスト5大学だけに限られている。英語の授業をどうどうと載せるだけの器量が東大や京大にあるのだろうか?しかしこんなところにも存在感を見せておいて欲しいものだ。日本独自のユニークな講義内容をどんどん発信してほしい。あのハーバードの日本史の女性教授のようにね。

ただ、日本人には日本語のMOOCsが必要だ。MOOCsの新規性となにより大衆性にいち早く気が付いた大学が次の時代のヘゲモニーを勝ち取るような気がするがなあ。

「がんの遺伝学」でMOOCsを作ってみたいなあ。

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以下、ラトビアからコメントを頂きました。
Mikija さんのコメント...
いつもためになるトピックや解説をありがとうございます。私は今ラトビアという国で癌関係の研究に従事しています。本当の研究はできませんが、診断や投薬の助けになるべくジェノタイピング等をやってます。
ラトビアなんぞに居ますと、米国のMOOCsは本当に助かります。周りを見回して、統計のできそうな人がいないので、CourseraとedXで統計関係のコースを幾つかとったら今や統計処理で引っ張りだこです。ものすごく役立ちます。
 
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Epistasis さんのコメント...
Mikija さん

ありがとうございます。MOOCsをご経験の方の投稿とはありがたいです。本朝は朝日新聞はMOOCsを大々的に紹介していましたが、これからどうなるのか注目です。

ラトビアは良いところのようですね。私はルイスサッカーという作家の「Holes」という児童書(10年くらい前に読みました)の主人公の家族の出身地ということで、かなり印象深く覚えています。リガですね。バルト三国は上からあいうえお順だと、これもクイズ的Tips。

これからもジェノタイプ頑張ってください(乳癌かしら?)

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バッタの遺伝子ゲノムのヤフー報道について

バッタの遺伝子ゲノム解明という記事が二〜三日前小さく報道された。65億塩基とヒトのほぼ2倍のゲノム量であり、非植物ではこれまでの最高値と書いてあった。もちろん反復配列が相当な量を占めており、実際の遺伝子数は16000位なのだそうだ。中国の研究者が中国科学院動物研究所(Institute of Zoology at the Chinese Academy of Sciences)というところからnature communicationsに出している。


Nature Communications | Article Open 
Received 06 August 2013 
Accepted 19 November 2013 
Published 14 January 2014 


The locust genome provides insight into swarm formation and long-distance flight



  • Locusts are one of the world’s most destructive agricultural pests and represent a useful model system in entomology. Here we present a draft 6.5 Gb genome sequence of Locusta migratoria, which is the largest animal genome sequenced so far. Our findings indicate that the large genome size of L. migratoria is likely to be because of transposable element proliferation combined with slow rates of loss for these elements. Methylome and transcriptome analyses reveal complex regulatory mechanisms involved in microtubule dynamic-mediated synapse plasticity during phase change. We find significant expansion of gene families associated with energy consumption and detoxification, consistent with long-distance flight capacity and phytophagy. We report hundreds of potential insecticide target genes, including cys-loop ligand-gated ion channels, G-protein-coupled receptors and lethal genes. The L. migratoria genome sequence offers new insights into the biology and sustainable management of this pest species, and will promote its wide use as a model system.

 ほほーと思ったことが一つある。この記事は小生ヤフーで気が付いたのだが、参考記事として、論文そのものにリンクが張られているのだ。ご丁寧にその下に「Yahoo翻訳」というサイトも付けている。

http://news.yahoo.co.jp/pickup/6103861



これまで医学生物研究がいろんなメデイアで報道されてきたが、ヤフーがオリジナルの論文にリンクを張るなどと言うのは初めて見た(と思う)。この論文はopen accessなので確かに無料で読もうと思えば読めるのだが、一般人(こんないい方ゴメンなさいな)にわかるわけがないというのが、これまでのマスメディアの態度であったわけだし、実際にはリンクした記者にこの論文が読めるとは思えない(またまたゴメンよ、でもそうにちがいない)。それでもリンクを張るという態度には感心する。

今後はこのような事例が増えるのであろう。なおのこと中間解説記事を書く人々が益々必要になるのですな。そう思う。そう思われてならない。

 

2014年1月13日月曜日

Ring chromosomeと山中iPSによる自己修復: nature

Ring chromosomeという病態があるのだそうだ。寡聞にして知りませんでしたが、たとえば17番染色体の短腕の欠損と(おそらく)反対側の長腕端が融合することで、輪状の染色体ができる。

Miller Dieker Syndrome (MDS)という病気があり。これは中枢神経系の異常で生まれてくるため精神発達遅滞とてんかんを特徴とする。この症候群では染色体17番短腕の17p13.3が欠落することが特徴であるが、このとき単なる欠失とring chromosomeが生じてこれにより17番短腕の17p13.3が欠落するタイプがあるとのことである。

karyotypeとしてはr(17)と記述するようだ(おそらくring 17)




左がwild type、真ん中が17p13.3を欠如したring chromosome(ヘテロであることを覚えておく)、右は単なる欠失。





この症候群患者のfibroblastをiPSすることで、結果として観察される「染色体変化」が興味深いのでnatureに論文が載っている。



Nature | Letter 
Receive 11 September 2013 
Accepted 29 November 2013 
Published online 12 January 2014

Cell-autonomous correction of ring chromosomes in human induced pluripotent stem cells 

 Marina Bershteyn, Yohei Hayashi, Guillaume Desachy,Edward C. Hsiao,Salma Sami, Kathryn M. Tsang, Lauren A. Weiss,Arnold R. Kriegstein, Shinya Yamanaka and Anthony Wynshaw-Boris 

Ring chromosomes are structural aberrations commonly associated with birth defects, mental disabilities and growth retardation1, 2. Rings form after fusion of the long and short arms of a chromosome, and are sometimes associated with large terminal deletions2. Owing to the severity of these large aberrations that can affect multiple contiguous genes, no possible therapeutic strategies for ring chromosome disorders have been proposed. During cell division, ring chromosomes can exhibit unstable behaviour leading to continuous production of aneuploid progeny with low viability and high cellular death rate3, 4, 5, 6, 7, 8, 9. The overall consequences of this chromosomal instability have been largely unexplored in experimental model systems. Here we generated human induced pluripotent stem cells (iPSCs)10, 11, 12 from patient fibroblasts containing ring chromosomes with large deletions and found that reprogrammed cells lost the abnormal chromosome and duplicated the wild-type homologue through the compensatory uniparental disomy (UPD) mechanism. The karyotypically normal iPSCs with isodisomy for the corrected chromosome outgrew co-existing aneuploid populations, enabling rapid and efficient isolation of patient-derived iPSCs devoid of the original chromosomal aberration. Our results suggest a fundamentally different function for cellular reprogramming as a means of ‘chromosome therapy’13 to reverse combined loss-of-function across many genes in cells with large-scale aberrations involving ring structures. In addition, our work provides an experimentally tractable human cellular system for studying mechanisms of chromosomal number control, which is of critical relevance to human development and disease.




さて上記染色体FISHであるが、左が患者fibroblast、中と右が二つのiPSクローンである。それぞれに二つの赤+二つの緑、一つの赤+二つの緑、一つの赤+一つの緑の表現系(genotypeのほうが正確かな)が混在している。問題はその比率であるが、これは下表。







左はもとの患者患者fibroblastであるから、そのほとんどは46XY, r(17)である。ところが、これらをiPS化するとそのほとんどが46XY化する。(17番もdiploidである)。そしてその詳細は図(f)にあるとおり、ほとんどの細胞が2R2Gなのである。

この解釈はiPS化により

  1. 病的なring chromosomeが染色体ごと欠失するということ
  2. 健常なもう一本の17 番がdiploid化するということを意味している。
    compensatory uniparental isodisomy




左側のパターンでdiploidyを回復しているようだ。

論文では最後に新たに13番染色体ring chromosomeの症例におけるiPS化での染色体「正常化」 を例証している。

現象自体がとても面白いのがひとつ、もう一つは極めて大きな染色体変化(欠失やリング化)などがiPS技術により修正可能(→治療)であることを示唆しているのである。

この論文がとてもとても面白いと思った次第である。







2014年1月11日土曜日

気腫症といってもこれはなあ・・NEJM image

大動脈にグラフトが入った患者には、以下のようなイベントもありうるという症例報告だ。
動脈壁内にガスがたまっているが、これは嫌気性感染なのだろうな。患者殿は大吐血でなくなったとのことである。
台湾からの症例報告だ。

Images in Clinical Medicine

Emphysematous Aortitis after Endovascular Graft

Yi-Luan Huang, M.D., and Ming-Ting Wu, M.D.
N Engl J Med 2014; 370:158   January 9, 2014
















当ブログには様々な気腫症が登場する。

2009年7月25日土曜日
尿路系の気腫??

2009年8月20日木曜日

Pneumatosis Cystoides Coli 

2011年8月25日木曜日

再度「腸管気腫症」:α‐グルコシダーゼ阻害剤による医原病 

2011年12月22日木曜日

心嚢気腫症:NEJM今週のイメージ

2013年4月14日日曜日

NEJMはPneumatosis Intestinalisがお好き

2013年7月29日月曜日

壊疽性(気腫性)胆嚢炎の特徴的なCT像

 






 

 

2014年1月7日火曜日

上肢の深部静脈血栓症について

昨日、あまり見たことのない上肢深部静脈血栓症の初診例に遭遇した。発症から16時間であり、左手がパンパンに腫れている。腋窩も腫れている。臨床的特徴だけメモしておく。 
  1. この方病歴を良く聞くと発症時刻がほぼ同定できる。昨夜の18時である。丁度お風呂に入ろうとして、服を脱いでいるときに異常に気が付いたとのこと。
  2. その異常とは「左上肢全体の痛み」である。程なく左上肢全体の色調が「黒く」なったと妻は言う。
  3. 夜半にかけて、左上肢は明らかに腫脹してきた。痛みは安静時痛である。
  4. 明け方 左手の付け根が腫脹し、痛くてたまらない。全体にしびれている。
  5. 朝方当院外来へ。内科ドクターの診察の後、小生ブースに相談。
  6. 見た目明らかに左右差のある左上肢が暗赤色とまではいかないが、蜂窩織炎と見まごうばかりに腫脹している。
  7. 左腋窩が特徴的。たっぷんたっぷんに腫れてる。リンパ液でも多量に漏れているかのよう。出血か? 
  8. 脈は正常。血圧左右差なし。SPo2も左右差なく96程度。
  9. 血圧測定のためのマンシェットを巻くと、左手にかなりの激痛がある。

というわけで、急性の血管障害(特に灌流障害)を疑い直ちに血管外科へ紹介したところ、左鎖骨下静脈に及ぶかなり広範な深部静脈血栓症と診断され、そのまま入院加療となった次第。

上肢のDVTなんてあるんだね。ちと驚いた次第である。 この患者で私が気になったのは発症時刻である。やはりacute onsetでは余程のことが起こっているのである。




上肢の深部静脈血栓症について
Deep-Vein Thrombosis of the Upper Extremities
N Engl J Med 364;9 861-869



Clinical Practice
Deep-Vein Thrombosis of the Upper Extremities
Nils Kucher, M.D.
N Engl J Med 2011; 364:861-869 March 3, 2011

静脈血栓症のうち、10%を占める。
発生率は1万人あたり0.4~1.0人
原発性(20%)と二次性(80%%)に分かれる。原発性にはPAget-Scheostter syndromeも含まれる。

下肢の静脈血栓症と比較して
・若年男性に多い。
・担癌患者に多い。
512人のPtの内38%に癌があった。
・カテーテル療法、ペースメーカー、除細動後に多い
といった特徴があり、逆に遺伝性の血栓形成症には少ない。

症状:discomfort, pain, paresthesias, weakness in the arm  浮腫、色調の変化も典型的な症状

診断:Dダイマーは低ければ除外診断には使えるが、高い場合はあまり有用ではない。 エコー所見がもっともよい。感度97%、特異度96%

管理:カテーテルに関連した血栓症であっても、カテーテルの抜去については必ずしも必要ではない。
低分子ヘパリンが治療成績として最もよい。治療は少なくとも5日間は継続。血栓溶解も有効であるとする研究もあるが、ヘパリン単独と比較して再発やPEのリスクを減らしたという報告はない。 
ステントは再発率を上昇させるため使用すべきではない。外科治療も静脈開存のリスクを上昇させるため賛否両論である。長期的な管理では、ワーファリンを3ヶ月以上投与することが有効

 Am J Med. 2007 Aug;120(8):678-84

上 肢にも深部静脈血栓症って発症するんですね、恥ずかしながら知りませんでした。Pub Medで検索すると1000件以上ヒットしてびっくり。下肢の深部静脈血栓症のみならず、上肢の深部静脈血栓症もこの10年間で急増しているそうなのです が、リスクファクターや治療の現状など詳しいことはあまり研究されていないようです。

この研究ではウスター病院(人口478000人)における1999年のメディカルレコードを調査し、深部静脈血栓症あるいはその可能性があると診断されたもの(上肢、下肢とも)をピックアップして調査、それぞれを比較検討してます。

年 齢で調整した罹患率は上肢では16/10万人、下肢91/10万人でやはり下肢の静脈血栓症の方が多いようです。疫学的には上肢の静脈血栓症の方が、年齢 が比較的若く、BMIが小さい人に比較的多い、最近手術や入院をした人に多いなどの傾向が見られたようです。まあ、詳しいことは論文を読んでみてくださ い。

その中で目を引いたのが、最近中心静脈を入れた患者さんに上肢深部静脈血栓症が多いと言うこと。抹消から中心静脈に留置するタイプの カテーテルならばそういうこともあるだろうと思うのですが、それだけでなく内頸静脈や鎖骨下静脈から留置された患者さんでも同じぐらいの頻度で発症してい るのが印象的でした。誰かが、「そういえば、ICUでCVを入れている患者さんがたまに腕が腫れたりすることがあるなあ…」なんて言ってました。

上肢深部静脈血栓症と診断された患者さん69人のうち、43人が中心静脈カテーテルを挿入されていたと言う結果。怖いですね。

ただ、どのような治療が行われたかを見てみると、積極的な治療を受けている人はあまりおらず、ヘパリンやワーファリンの投与を受けた人の割合も下肢の深部静脈血栓症に比べて有意に低い、ということでした。

というのも、上肢の深部静脈血栓症はあまり重篤な肺塞栓症を起こすことが少ないらしく下肢では15%ほどが肺塞栓症を発症するのに対し、上肢では1-2%程度とのこと。とはいえ、全く起こさないわけではないのでこれからも研究が必要とか何とか…。

後期研修医の抄読会だったのですが、他の先生方もあまりご存知なかったようで、みんなの食いつきはかなりのものでした。どうやって探してきたのか知らないけど、やるな~。僕も次は頑張るぞ、と。

太田覚史,山田典一,石倉 健,太田雅弘,矢津卓宏,中村真潮,井阪直樹,中野 赳 
三重大学 医学部 第一内科
日本脈管学会雑誌より



【背景】上肢深部静脈血栓症は深部静脈血栓症の約 3.3~5% 程度と言われる稀な疾患であり,その治療方針については依然確立したものがないのが現状である。今回,我々は当施設において経験した上肢深部静脈血栓症患 者に対する血管内治療の経過を若干の考察を交えて報告する。
【対象】上肢腫脹,疼痛を主訴に来院した上肢深部静脈血栓症の 3 例(平均年齢 31.7±4.5 歳,左側 1 例,右側 2 例,原因:Paget-Schroetter 症候群 2 例,中心静脈カテーテル留置 1 例,うち 2 例に急性肺血栓塞栓症を合併)。
【方法】全例に対して上大静脈に一時留置型下大静脈フィルターを留置した後に,カテーテル血栓溶解療法を試みた。血栓溶解 剤はウロキナーゼを使用し,総投与量は平均 272±27 万単位であった。慢性期にはワーファリンによる抗凝固療法を行った。
【結果】全例で静脈血栓の完全溶解と共に血流再開が得られた。Paget- Schroetter 症候群の 2 例では鎖骨下静脈の高度狭窄病変の残存を認めたため,経皮的バルーン静脈形成術を行い,十分な拡張が得られた。平均 24 ヶ月間の追跡調査では全例開存が維持されていた。上肢深部静脈血栓症に対して,カテーテル血栓溶解療法が有効であった。また,一時留置型下大静脈フィル ターの併用にて治療に伴う急性肺血栓塞栓症の発生を予防できた。 Paget-Schrotter 症候群による上肢深部静脈血栓症の場合には,血栓溶解が得られた後の残存静脈狭窄病変に対して,経皮的バルーン静脈形成術が拡張に効果的であった。慢性期 抗凝固療法継続にて長期開存が得られた。

パジェット・シュレッター症候群   Paget-Schroetter syndrome


【英】: Paget-Schroetter syndrome
同義語: 労作性血栓症  effort thrombosis
本文: Pagetが右腋窩静脈血栓性閉塞例を報告し(1875),Schroetterが上肢労作によると考えられる右上肢静脈血栓例を報告した(1884). 以来,利き腕上肢の過外転,過激な運動によって鎖骨下,腋窩静脈が内膜損傷を受けて血栓性閉塞をきたす疾患をPaget-Schroetter症候群,あ るいは労作性血栓症という.原因〕 利き腕上肢の過激な労作のほか,外傷,感染,血液凝固亢進,腫瘤による圧迫,静脈炎などが考えられているが不明な点が多い.〔症状・診断〕 若年の活動的男子の利き腕上肢に好発する.上肢の浮腫,チアノーゼ,労作時鈍痛をきたす.副血行路の形成により,数日ないし数週で軽快することが多い.上 肢静脈造影で確診される.〔治療〕 発症後10日以内であれば血栓除去術を行う.慢性期では抗凝固薬,血小板凝集阻止薬の長期投与が試みられるが著明な効果は期待できない(Sir James Pagetはイギリスの外科医,1814-1899;Leopold von Schroetterはオーストリアの喉頭科医,1837-1908).
北里研究所病院外科
末廣有希子,金田 宗久,首村 智久
大作 昌義,浅沼 史樹,上里 一雄
宮川  健,山田 好則

 今回われわれは比較的まれなPaget-Schroetter症候群(原発性鎖骨下静脈血栓症)の 1 例を経験したので自験例を報告するとともに本邦報告例94例について検討した.症例は47歳男性.気管支喘息,2 型糖尿病のため当院内科にてフォローアップされていた.2004年 9 月26日,体操をしている際,上肢外転の動作後に,突然右上肢に疼痛,腫脹が出現し,当院来院した.上肢MRvenography,超音波検査にて,右鎖骨下静脈の完全閉塞を認めたため,臨床症状及び経過よりPaget-Schroetter症候群と診断した.ウロキナーゼ,ヘパリンによる抗凝固及び血栓溶解療法にて症状は徐々に軽快し,その後の上肢MRvenographyにて右鎖骨下静脈の再開通を認め,現在抗血小板剤内服にて外来経過観察中である. 本症例では,体操中上肢外転運動が誘因となって発症したと考えられた.重度の気管支喘息を合併しており造影剤の使用にリスクを伴うため静脈造影を実施できなかった.また同様の理由でウロキナーゼのカテーテルによる局所投与も施行できず,全身投与を施行し,症状の改善を認めている.Paget- Schroetter症候群は比較的まれな疾患であり,本邦では検索しえた限り自験例を含め94例報告されている.平均35.7歳の血栓性素因のない比較的若年に発症し,男性74例,女性20例であった.上肢の症状に限局した症例ではほぼ全例で保存的療法による症状の軽快を認めている.肺塞栓合併例は10 例の報告があり,保存的療法のみでは反復するため,外科的療法(血栓除去術,胸郭出口の減圧術,バイパス,IVR等)が施行されている.治療法については 一定のコンセンサスが得られていない現状では,まず保存的療法を行い,それによって症状の改善を認めない症例や肺塞栓を合併する症例に対しては年齢や社会 的因子を考慮した上で外科的療法を検討するのが望ましいと考えられた.

日本血管外科学会雑誌より 

2014年1月6日月曜日

ビッグデータについて考える

ビッグデータという言葉が流行っている。そこでビッグデータをWikipediaで検索するとそのページは実に難解な解説で埋め尽くされている。これが理解できるヒトはいるのでしょうか?小生にはまったく意味不明でした。翻訳なのかしらん?誰か書き直してくれれば良いのにと思います。

さてビッグデータであるが、流行っているといわれると、どこで?と言いたくなるが、じつはゲノム情報を追いかけている小生などは、ゲノム解析こそビッグデータ解析そのものであろうと思われるのである。ゲノム解析の実例以外の一般例として気象解析や車のシミュレーションは想像の範囲内であるが、その他がどのようなものかわからない。

小生この一年、ゲノム解析におけるエリック・ランダーの総説を紹介しているが、実は彼の総説の最終章では今後大事なこととして4つの項目があげてある。その最後が情報の共有であり、統合であり、世界規模のビッグデータ解析ということになるのだろうと小生は理解した。

さてビッグデータ なんてどこから生まれた概念なのだろう?その源流を探るに相応しい文章を見つけたので引用する。

[特集] もう一度「ビッグデータ」を考える

みずほ情報総研のHPから引用だが、実はこの説明は楽天技術研究所 所長の森 正弥さんの引用のようである。孫引きなのね。

・・・・・・・・そもそもビッグデータとは、Information Explosion(情報の爆発的増大)に関する研究などのコンセプトから派生したもので、膨大なデータがあれば分析精度が跳ね上がるという現象が判明したことから始まったものだという。「2006年にアメリカ国立標準技術研究所(NIST)後援で開催された自動翻訳のアルゴリズムを競うコンテストで起こった事件に起因する」(森氏)。このコンテストは、英文を次々と別の言語へ自動翻訳し、最後にもう一度英語に翻訳して、最初と最後の英文がどの程度異 なっているかによりアルゴリズムの精度を測るもので、「そこに初めてGoogleが参戦し圧倒的勝利を収めたのだが、彼らは自然言語処理技術を使用せず、 Web上にあるデータから言葉と言葉の関連性の距離を計算し、距離の近いものを当てはめて翻訳していくという手法をとった。これはつまり、理論がなくともデータが大量にあれば、精度の高い分析ができてしまうという世界がくることを意味した。これがビッグデータの本質であろう。」(森氏)。 

これは非常に腑に落ちる説明だ。「理論がなくともデータが大量にあれば」 というのは「臨床診断」に最も相応しいプロトコールではないかと、小生などベッドサイドで最近つくづく思うからだ。

たとえば急性虫垂炎である。いろんな情報がある。スタートは右下腹部痛である。そこにいろんな経験が診断を修飾する。「下痢にアッペはない」「当初は季肋部痛である」「嘔気からスタートする」「高熱はない」等々

これらは一対一の対応である。だから悩ましい。実臨床では高熱のアッペがあってもおかしくないし、下痢をしているアッペがいてもおかしくないからだ。

そこにビッグデータが出現。カルテには一人の患者の臨床記録と最終診断が載っている。この世のどこかにあるスパコン様「Big Blue」がこのデータをscanしていく。データをさらわれるわけだな。全世界中の病院データからscanしていくのだ。

そして多変量解析あるいはアレイデータなどでよく使われたヒエラルキー・クラスタリング解析などを「予見なく」行うわけである。クラスタリング解析とは「距離」の計算であり、距離に応じて仲間分けをしていく方法論であるから、まさに先の翻訳ソフトと類似するのである。

アッペ患者数万人のデータ解析をする。その結果パソコンにはアッペ診断学のアルゴリズムができあがる。

さてアッペ疑いの新患がやってきたら、その新規患者の臨床経過を逐一カルテ(電子カルテにでありますぞ)に記入していく。すると「人間には何故そうなるのかは、『にわかにはわからないアルゴリズム計算」の結果、正確に「アッペの診断」がつくのである。

先のグーグルの翻訳アルゴリズムはこのアッペ診断法を先達しているのではないだろうか?

これが小生のビッグデータの理解である。 クラスタリング解析を山のように見てきて、もう人知の及ぶところではないなあと実感すること15年の達観なのである(あきらめかしら?)



新春第一弾はMIT/Harvard連合軍のnature

Nature(2014) 

Received 12 September 2013
Accepted 27 November 2013 
Published online 05 January 2014  

Discovery and saturation analysis of cancer genes across 21 tumour types 

Michael S. Lawrence,Petar Stojanov,Craig H. Mermel,James T. Robinson, Levi A. Garraway, Todd R. Golub,Matthew Meyerson, Stacey B. Gabriel, Eric S. Lander and Gad Getz 

Abstract

Although a few cancer genes are mutated in a high proportion of tumours of a given type (>20%), most are mutated at intermediate frequencies (2–20%). To explore the feasibility of creating a comprehensive catalogue of cancer genes, we analysed somatic point mutations in exome sequences from 4,742 human cancers and their matched normal-tissue samples across 21 cancer types. We found that large-scale genomic analysis can identify nearly all known cancer genes in these tumour types. Our analysis also identified 33 genes that were not previously known to be significantly mutated in cancer, including genes related to proliferation, apoptosis, genome stability, chromatin regulation, immune evasion, RNA processing and protein homeostasis. Down-sampling analysis indicates that larger sample sizes will reveal many more genes mutated at clinically important frequencies. We estimate that near-saturation may be achieved with 600–5,000 samples per tumour type, depending on background mutation frequency. The results may help to guide the next stage of cancer genomics.

2014年1月5日日曜日

がんゲノム研究から学んだこと(7):Cell 誌 Eric Landerの総説


がんゲノム研究から学んだこと(7):Cell 誌 Eric Landerの総説



癌ゲノム学の次なる課題

知識を応用すること:診断学と治療学

  がんのゲノム研究が真に役に立つものになりうるかどうかは、それががんの診断と治療を向上させるかどうかにかかっている。
大規模研究施設はすでに第1世代のゲノム知見をがん治療戦略に取り入れている(Dias-Santagata et al., 2010;
MacConaill et al., 2009; Thomas et al., 2007; Wagle et al.,
2012) 。この知的基盤には数百個におよぶがん関連遺伝子変異リストを用いた検査および、限られたがん関連遺伝子が対象ではあるが、これらを完全にシークエンスすることなどが含まれている。初期研究によると固形癌の40%から60%の症例では治療戦略に決定的な、あるいは特定の治療試験へ参加できるかどうかを決める少なくとも一つの遺伝子変異情報が絞りこめるようになった。シークエンス費用が下がるにつれ、診断学は全エクソームから全ゲノムシークエンスへ焦点を向けた。科学データがたゆまなく変化していくなかで、冗長なデータを洗練させ、オンコロジストへうまく情報を伝えることが次なる課題となるであろう。最終的には、ゲノム解析が癌治療の標準手段の一つの柱となっていくことであろう。
 
  臨床研究をデザインし実行しその結果を解釈する上で癌ゲノム学が中心的役割を果たすことになると予想される。研究者達は過去の臨床研究を評価するために、すでにゲノム情報を充分活用し始めている。最近では「例外的症例」におけるゲノムシークエンス情報への興味が拡大してきている。「例外的症例」とは抗癌剤に極めて良く反応し、腫瘍が完全に消失してしまったような症例をいう。膀胱癌の一例を紹介すると、エベロリスムス(TOR抑制薬である)で完全に消失した膀胱癌症例をゲノムシークエンスしたところ、2つの遺伝子(TSC1 and NF2)変異がTORシグナルに影響を与えることが見出された(Iyer et al., 2012)。別のエベロリスムス治療症例をシークエンスしたところTSC1変異が抗癌剤反応性に関係していることがわかった。ゲノム情報を治療前に用いることになると臨床試験のデザインが根本的に変わることになる。がんの治療研究では伝統的に組織学的分類を基盤に患者の層別化が行われてきた。しかしながら、遺伝子情報をもとに同じ遺伝子情報を持つ患者同士でグループ化を行う方がより重要で有益であると考えられるようになった。そうすることでサンプルサイズを小さくでき、費用を低減化できるし、さらには患者への副反応を低く抑えることが可能だ。臨床治験の中には、ある特定の遺伝子変異を持つ、臓器を超えた幅広い様々な癌患者群を対象群とすることも合理的である可能性が出てくる。スローン・ケタリングがんセンター主体の臨床治験の例では、BRAF v600変異を持ちRAFMEK抑制剤で治療された大腸癌、甲状腺癌、肺癌等々が対象となった。さらには最新の治験では多種類の薬剤やその組み合わせを一気に同時に調べるというデザインも始まっている。この「ゴミ箱」治験では患者はその遺伝子プロフィルによって各種治療グループに割り当てられていく。「ゴミ箱」治験ではまた、「適応デザイン」という手法も用いられ、治験の途中である遺伝子変異が薬剤感受性に関与する可能性が見出されると、治験が走っている最中にデザイン変更を可能にするのである。また治験中に患者サンプルを次々に系時的に採取解析することで、その治療の薬理学的ダイナミクスを評価できると共に治療抵抗性の機構がいかに生じてくるか解析することもまた可能である。遺伝子型にしたがって患者を類別するための世界的規模のいわば「手形交換所(全世界的治験センター)」を作ることも有効であろう。これはたとえば極めて稀な遺伝的特徴を持つ腫瘍への治療反応性を評価するために必要な莫大な数の対象患者を集めるのに有効である。

  抗ガン剤の発見のために、すでにゲノム研究の治験が用いられている。変異遺伝子産物そのものが、ある種の腫瘍では薬剤ターゲットとなる。しかし多くの突然変異は癌細胞の脆弱さの原因となることが多く、それゆえ機能的ゲノム研究によって見出されることが多い。様々な変異を併せ持つ非常に多くの細胞株をRNAiでスクリーニングすることにより発見されるのである。特異薬の創成とは別に、がんゲノム学の知見は癌治療にとって重要な多剤併用療法にとっても極めて重要になっていく。多くの腫瘍では単剤治療ではやがて効果がなくなっていく。BRAF変異メラノーマにRAF/ MEK抑制剤を使用すると素晴らしい効果を認めるが、多くは一年以内に再発する。治療抵抗性については多くの遺伝学的機序が知られている。すなわちNRAS変異によるもの、COT/MAP3K8遺伝子コピー数増加、BRAF遺伝子増幅、MEK1遺伝子の活性型変異、NF1遺伝子の欠失などがこれまで報告されてきたが、これらは治療薬剤に曝露される環境ではMAPキナーゼ(ERK)活性を恒常的に上昇させるのである。以上の事実はRAF/MEK 抑制薬にERK抑制剤を加えた治療レジメンの可能性を示唆するのである。きめの細やかな前臨床試験を組み合わせることで抵抗性が生じる機序の解明が期待出来るし、臨床家にとっては実際に薬が効かなくなるはるか手前で新たな治療戦略を練り直す機会となるだろう。RNAi による抑制とORF 強制発現の実験系を用いた最近の大規模研究ではメラノーマでのRAF抑制薬が効かなくなることに関連する遺伝子が発見された。この結果は実際の臨床例でも確認することができた。がんの周辺に存在する間質細胞を調べた研究もあり、癌治療の抵抗性に関与する分泌因子に注目することでHGF (Hepatocyte Growth Factor)RAF抑制薬の抵抗性に関与することを明らかにした。以上紹介したアプローチは単剤治療トライアルが終了する前に多剤併用によるレジメンを合理的に考案するきかっけになり得るのである。 

  最後に多剤併用療法は治療抵抗性が生じる可能性を変化させる。楽観的に見て良い理由もある。数学的モデルが示唆するところによれば、治療抵抗性は多くの場合腫瘍細胞にすでに存在する突然変異に依存するということである。もしそうであるなら、再発を予防するためには、再発に繋がる様々な突然変異に対応する薬剤を一挙に同時に使用することが必要であり、そのような多剤併用により抵抗性の生じる可能性が極めて小さくすることができるはずである。これはHIV治療における三剤同時併用療法の基盤となる考え方と一緒である。 

  つまるところ癌のゲノム遺伝学は合理的な多剤併用療法の組み合わせを選択するために必須の詳細なロードマップを提供することを目指さなくてはいけないのである