2007年12月1日土曜日

腫瘍の休眠状態について(2)

A:備忘録的にまとめるとDormancyには二つの状態が考えられる
(1)癌細胞が増殖を止め完全に眠っている・・Cellular dormancy (G0–G1 arrest )
(2)増殖分に見合う分アポトーシスや免疫監視機構により減少し全体では増減なし
  ・・Tumor mass dormancy

  (1)(2)ともに見かけ上は腫瘍は増大しない。

B: これを補完するものとして
(3)Angiogenic dormancyというのも大事な概念である。腫瘍は小さいうちは腫瘍血管を必要としないがミリ単位になると、その生育には周囲間質からの栄養血管の誘導が必要となる。vascular endothelial growth factor (VEGF) thrombospondin (TSP)が主役となる。VEGFは有力な血管誘導因子であり、2007年春に日本でも認可されたアバスチン(抗VEGF抗体)は大腸癌のMST(平均生存期間)を20ヶ月に伸ばした薬剤として有力である。その血管誘導が適わない状態はdormancyをもたらし、Angiogenic dormancyは正の因子と負の因子の釣り合いで保たれているらしい。

(4)Immunosurveilance (免疫監視機構)はいうまでもなく腫瘍免疫であり、特に腫瘍が小さいうちは「芽」を摘み取られているのは間違いない。


C: Dormancyが破綻する機構として、ここでは乳癌や扁平上皮癌で説明されるが、主役は以下の通り・・・
(a) fibronectin (FN)
(b) uPAR (metastasis-associated urokinase receptor)-integrin complex
(c) focal adhesion kinase (FAK)
(d) epidermal growth factor receptor (EGFR)


D: 最終的なシグナルは以下につながり細胞増殖あるいは休止をもたらす
(a) extracellular signal-regulated kinase (ERK)
(b) p38

E: 現代的なTumor dormancyあるいは転移の成立は以上のように説明される

なかなか把握しずらい機構であるが、今後の理解の基盤として特にC,Dあたりに馴染んでおくことが肝要かと考える。

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