2010年7月5日月曜日

子宮頸癌とワクチン

つい先日ある親御さんから「娘に子宮頸癌ワクチンを打った方がよいものかどうか」という相談を受けた。まだ返事をしていないのだが、世間の推奨コメントに乗れば「取りあえず受けておかれても良いのではないでしょうか」となる。

ワクチンを打つことの問題点を整理することは実は易しいことではない。どんな問題が潜んでいるか、実はわからないことが多いからだ。新聞やネットの論調が当てになるのならこれほど良いことはないのだが、経験的には裏切られることもまた多い。裏切られたときには「そんな事を言ってはいません」という言葉を非常に良く聞く。きちんと聞いていなかった大衆が悪いのだ・・・ということになってしまう。

「子宮頸癌が予防できるなんて、一言も言ったことはありません。」「だいたいFDAから認可・発売されて何年経っているとお思いですか?まだ5年といったところでしょう。」「最初のアフリカの少女たち(テスト対象者達のことです)はその後、正常なsexual acitivityを経験し、あるいは妊娠・出産した対象者も多いでしょうが、発癌頻度を観測するには、まだまだ観察期間が短いのです。」「私たちが(発売元)が当時言明したことは「添付文書」に書かれていることにつきます。」「私たちは『
抗体が誘導される』ということだけしか述べていません。最初の一年で三回投与します。被験者のうち50%は6年間は抗体陽性が続きます。これが全てです。」

この期間はパピローマウイルス感染は予防できるといっていいでしょう。上手くいけば液性免疫のみならず細胞性免疫が誘導されることは通常の免疫反応から充分予想できます。したがって一度免疫ができれば、かなりの確率でパピローマ感染を防御できるはずです。私たちも大いに期待しているのです。あのアフリカの少女達が20年たって明らかに子宮頸癌の惨禍を免れることができることを!でもそれを証明するためには時間が必要なのです。(赤文字の部分は希望的言明にすぎない)

いいですか?パピローマに対する液性免疫が高率に惹起されることは保証します。しかし子宮頸癌を予防できたという疫学的データはいまのところないのです。

しかしながらだよ、それでもなお「ワクチンを打つ必要はない」という議論にはならないのが臨床医学である。ここから先は個々の覚悟の問題である。親の覚悟の問題であるし、ある場合は本人の覚悟の問題である。

  1. 子宮頸癌はいかに悲惨かという啓蒙は大事である。
  2. 子宮頸癌は今現在、予防可能であると考えられている唯一の癌腫である。
  3. ワクチンの副作用はそれほど大きくなさそうである、なさそうに見える。
  4. 保険が効かないので、3回打つと7万円くらいかかりそうである。
この4つのことを充分に知った上で、それで「本人みずからのあるいは親みずからの覚悟を持って」ワクチンを打つべきだと思う。

もとい、このテーマには「・・・すべし」という答えはない。調べて自分で覚悟を決めてワクチンを打ちなさい。このテーマに関しては「納得いく説明」というのは用意できないと考える。「とてつもなく便利なものが出来た。ワクチンさえ打っていれば子宮頸癌は予防できる可能性があるというのだからね」とポジティブに考えたい。このワクチンに関しては副作用が出ても、自分の問題として引き受ける姿勢が大事である。先ほどからいっている「覚悟」というのは、そのことを指す。


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